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Vol.29 『出口のない海』

場内はすすり泣く声が聞こえてくる。おそらく戦争体験者かそれに近い人だろう。日本中が涙したとか、生きることの意味を問いかける感動大作とか、「さぁ泣いて下さい」と言わんばかりのコピーだったが・・・。

 

私には伝わってこない。原作は読んでいないし『半落ち』も観ていないが、演出が悪いわけでもないし、役者が悪いわけでもない。脚本の悪さに尽きると思う。何のために志願し敢えて死に向かっていくのかと問われると、「回天」という人間魚雷に乗って死んでいった人間がいたということを語り継いでもらうために志願したと答える。自ら命を絶つという時に、こんなこと平然と言うだろうか? 出撃前の最後の休暇で帰った時、主人公の妹が電報で知らせてはいるが彼女は来ない。その時に家族の前で、逢いたくないけど彼女は好きだと言う。こんなこと言うだろうか? 翌日、駅に見送りに発車直前に彼女が駆けつける。それまでも平穏でいられるだろうか? これまで山田さんの描く男は(寅さんも含めて)大切なことに関しては寡黙だ。状況は違うが、これが寅さんなら眠れないはずだ。そのしぐさやセリフに観客が同化して泣いたり笑ったりする。これが山田映画の真髄である。『たそがれ清兵衛』まではそれが貫かれていたが、その後の『隠し剣 鬼の爪』の緒方拳の役回りから吐くセリフからおかしくなった。この作品も山田さんの失敗は、主人公の「回天」操縦士が「死」ということに対してカッコつけすぎてしまい、ジタバタもがきもせず「死」ということを絵空事にしてしまったことだ。

 

『武士の一分』もたぶん観ない。ただひとつ、褒めるところがあるとすれば香川照之である。艦長役として存在感たっぷり。ひとり輝っている。いい役者である。

 

それにしても◯◯◯さん、「禁煙サイン」球切れ(右側)。ひと目見れば分かることです。今は上映開始とともに「非常口サイン」も消えるのが普通です。ロビーばかりいくら改装してもダメですよ。スクリーンも煤けているし。やっぱり場末の映画館です。

 

                               黒澤 忍

 

botan

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