|
風呂上がりに喰らう缶詰めデザートは格別である。パイナップル、ピーチ、みかん、いろいろなフルーツ缶詰。
パイナップルは機械が一気にスライスしそうだ。
ピーチはくるくる回されて皮が削られそうだ。
しかし、みかんだけはどのような工場の工程を経て出荷されるのか皆目見当がつかなかった。
そとの皮は機械で剥けるとしても、中には薄いデリケートな皮があり、機械の手が入ろうものなら、実がグチャグチャになってしまうだろう。
だからみかんの缶詰めだけはきっと未だに人の手によるものだろう。とずっと思っていた。
農村にあるみかん缶詰め工場には気のいいお年寄りが”みかんの皮むき”のバイトをしに集まる。デリケートな皮を器用に口で剥いて、手さばきも慣れたものだ。工場には「この道何十年」といった達人もいる訳で、
「ウメさんの”一度に2個剥き”の技は誰もマネできない。」とか
「さすが”時給1000円工女”の仕事ぶりは違う」とか、
「トメさんは1日最高60缶もつくった。」だの伝説もきっとあるはずで、一年で一番忙しいシーズンになると、工場はさながら”野麦峠状態”の様相を呈し、
「ゲホッ、ゲホッ。」(バアさん咳き込んで倒れる)
「大丈夫かい?タネさん。」
「明日までに50缶収めなくちゃならないんだ。 風邪くらいで寝てられないよ。」みたいな地獄絵図が展開されそうで、忙しいもんだから工場長もこっそり時計の針を戻したりなんかして、バアさん気づかなくて延々残業させちゃったりして、バアさんは年中口にみかん入れてるから手に黄だん出ちゃったりして、こっちは風邪ひいたバアさんの口で剥いたみかんは食べたくないわけで、であるから、私はみかんの缶詰めを食べるとき皮むきに命をかけたバアさんの事を想いながらいただいていたのだが、それが”みかんの皮は薬品で溶かされている”と知ったのはかなり後の話である。 完
|