BAKAPERA MAIL


 自分の渾身の一球を、豪速球で返球してくれる時ほど嬉しいことはない。
 半年もかかってしまった大作「ローン」を放棄してしまった私は、それでもバカペラの新曲を待ってくれている人達の気持ちに報いる為、制作途中のままフェードアウト処理を行って発表してしまった。

 そんな中途半端な曲であるにもかかわらず、ある日届いた一通の熱いメール。それは「架空の庭」の作者であるよしもとさんからであった。そこに書かれていた内容は、作者である私の目を涙で溢れさせるほどの感動的で誠意的なレビューであった。この一通のメールがなかったら、私はあの曲を完成できなかったかもしれない。私の心の琴線を震わせた熱い返球は、私に実力以上の力を与えてくれた。人と人とは、案外そういうものなのかもしれない。

 今回このメールをページに起こして、記念として保存した。これからも私は静炉巌さんと共にバカペラの布教活動にいっそう励む所存である。よしもとさん本当にありがとう。感謝の言葉は尽きない。

 

ロー


本レヴューは、「ローン」の作者、呉エイジ氏に捧げるものである。

本レヴューで取り上げる、「ローン」とは、呉エイジ氏のKure's Home Pageの素晴らしいコンテンツの中のひとつ、「バカペラの世界」の作品である。わたしは、氏のサイトの「バカペラの世界」を発見し、まことに新鮮な驚きを得たのであった。これこそ、最新テクノロジーと人間とが見事な融合を果たし、芸術にまで昇華されているよい例である。いまだ、テクノロジをこのように使っている例をわたしは知らない。

この「バカペラ」とは、本人の定義によると、「おバカなアカペラ」のことである。最新テクノロジーを駆使し、本人の声を多重録音して、ハーモニーを作り出すのである。この場合、百聞は一見にしかず、の逆で、一回ご自分の耳で聞かれることをおすすめする。

さて、本題のレヴューに話を進めよう。
本レヴューで取り上げる「ローン」とは、氏の「バカペラの世界」の中では、第4作目、1999年では第1作目になる作品だ。ファンにとっては、待望の新作である。氏のバカペラ作品は、これより以前の「パープリン」「ノー・マネー」「もういや」の3作でハーモニーを直接攻撃として使ったものとしては、一応の完成をみたかのように思われる。そのせいか、今回の「ローン」は、前の作品のよいところをぎゅっと濃縮しつつ、以前にもましてポップな仕上がりとなっていると思う。

まず、第一印象としては、ハーモニーがなんとも素晴らしい。
しばしハーモニーを堪能していると、これにかぶさって「♪あんやんやんやんや〜〜」というコーラスが入ってくる。これがまた絶妙のタイミングであり、声の揺れ具合もバッチリだ。しかも、この「♪あんやんやんやんや〜〜」があるからこそ、ハーモニーの響きの美しさが、より一層ひきたつのである。まったく素晴らしいコーラスである。

そして、いよいよヴォーカル。この歌詞がまた素晴らしい説得力なのである。
自分の思いをそのままハーモニーとして昇華させる、呉氏の初期のスタイルから、より洗練されたスタイルになっているのではないだろうか。
この作品において、呉氏は、自分の募る思いを「歌詞」という形に昇華させ、あふれる感情を行間に隠し、ハーモニーで盛り上げている。ハーモニーは、直接攻撃から、間接攻撃へと変化を遂げ、さらに美しくなっているのだ。
そして、ヴォーカルの合間に入る「前借り禁止〜」というコーラス。本人のやり場のない思い、ローンしかもう選択の余地のない切ない気持がこちらに伝わってくるかのような、秀逸なコーラスだ。

そして、最後のクライマックスにかけてのパートで、「家出ていくで〜〜」と奥さんが自分の心情を吐露している部分。ここでは、ヴォーカルの天性ともいえる声の裏返り加減と奥さんの心情が見事にマッチしている。呉氏本人は、この部分を「情けない」と自己評価していらっしゃるが、わたしはこの部分があるからこそ、この曲に説得力が出て、さらにリアルになっていると考える。そう、この一見情けないとも思われるヨレヨレとした声の裏返りこそ、この歌の真骨頂なのだ。

次回作が今から楽しみである。

[1999.03.11 YOSHIMOTO] 架空の庭