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オデキ
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学生の頃から尻にオデキのできる位置は決まっていた。 「風呂入るの、めんどくせーや。」 そういう次の日に限ってポカポカと温かくて、蒸れたりすると、とたんに”奴”は現れる。 なんでこんなに腫れ上がるのか?と思うくらいに左のケツの椅子に重心をかけている中心点に直径10円玉くらいのオデキが浮かび上がる。 ここまで腫れると、重心をチョットでも左にやると結構な激痛が走る。まるで痛みのクッションだ。 1日が終わって風呂に入りボディーシャンプーでオデキを2本指で集中洗いしたところで”時既に遅し”である。奴は1日体重をかけたおかげで熱を持ち始め、我が物顔だ。 そっとつまんでみると、 「一体中に何が入っているのか?」 と思うくらいのコリコリとした脂のシコリらしきものが確認できる。 左ケツなので、その憎き奴の姿は体を思いきりねじった所で全貌を捉えられる訳が無く、奴の姿を確認するには手鏡の手助けを借りなければならない。 一応、部屋に誰もいない事を確認してパンツを降ろす。そうして座椅子などを持ち出してリラックスした態勢をとり、足をVの字に開き股間から手鏡を差し入れると、その部分だけ赤黒く変色した奴の全てが映し出される。 いくら自分の体だとはいえ、奴は異物だ。しばらく手鏡をスライドさせていろいろな角度から”ガンを飛ばす”この時、離れた正面位置に全身を映す鏡があったとしたら、その生まれたままの姿での悪夢のV字ポースは、速攻、腹に ”滝ゲロ” 間違いなしであろう。 鏡で確認した時点で、奴の芯は、まだ表皮まで浮上してきてはいなかった。 表面から約5mmくらい奥の所で、活火山のマグマのような活動を行っているのだろう。こういう時が一番ツライ。 オデキ末期なら、ニキビのように早急に芯潰しにかかることも出来るのだが、この状態で手を出すのは非常に危険だ。 ヘタに手を出すと、奴の活動範囲を広めることになり、痛みも増す結果を生むからである。 ”生む”からである。 でも、”膿む”からであるでも、この際どうでもいいことだろう。 一息ついてパンツを履くのだが、奴は衣類がこするだけでも激痛を与えるまでに成長していた。こうなると座椅子を使用しても痛みはジワジワと広がるわけで家にいる場合はうつ伏せを強要される。 この状態をサーモグラフで撮影したとしたらパンツを通り越して熱を放射する”奴”の姿を、カメラは捉えるハズだ。 「しばらく”奴”との共同生活になりそうだ。」 食事時も、風呂場のイスでも、左に重心をかけないよう細心の注意を払う。奴は着実にその勢力範囲を延ばし、成長している。布団に入っても考えるのは奴のことばかりだ。1日考えると頭もおかしくなってくる。 「今、メスでオデキを切れば、事は全て終わるのではないか?」 「そうしたら”フジッコのお豆さん”の化け物のようなものが出てくるのではないか?」 しかし家にメスなどないし、素人がそんな物騒なものを扱える訳が無い。切れ目なく断続的に続く痛みは、私の頭を妄想モードへと加速させる。 「針をライターで熱して消毒し一息に刺せば、奴も息絶えるのではないか?」 垂直に刺すのはマズイだろう。私へのダメージもきっと大きいハズだ。オデキを刺すつもりが場所を間違え出血多量にでもなれば、末代までの恥だ。 「10円玉大のオデキの周囲を糸で囲い、思いきり引っ張れば、その全てが吐き出されるのではないか?」 この時私にはこれが一番効果的なように思えた。ダメージも少なそうだ。痛みから開放される。夜中にもかかわらず妄想で疲れた頭は、体に「裁縫箱へ行け!」という命令を下した。 白い糸を適当な長さで切り、両方の人さし指にグルグルと巻き付ける。 パラパー 頭の中には”必殺仕事人”のテーマソングが流れていた。もう眠くてアホだ。糸をオデキの周囲に這わせて一回りし、適度にゆるめておく。そうしておもむろに 「ふんっ!!」 渾身の力で糸を引っ張った。 「殺ったか?」 その直後、今までにない激痛がケツを走り、私はのけ反ってしまった。 「痛みが2倍になってしまった・・・。」 夜中にガサゴソと座椅子を出すと家族が起きる可能性があるので、手鏡を床に置き、ウンコ座りして”奴”の現状を確かめる。 「真っ赤だな」(童謡風) 奴は生きていた。渾身の力といっても、やはり”ためらい”があったのだろう。8割程度の力しか入れられなかった。そのおかげで奴は更に熱を持ち、”血ウミ”の生産も量産体制に入ったようだ。やはり無闇に”腫れ物”には手を出してはいけなかったのだ。こうなると最早手の打ちようがない。うつ伏せの状態であったとしても扇風機の風がケツに当たるだけで痛みを運んでくれる。 自分の意気地の無さを後悔し、再チャレンジする勇気も失せていた。痛みのせいで、何時に寝たのかさえ記憶がない。 ※ 翌朝、目が覚めてトイレにいく。触ってみると”コア”は昨日より腫れ上がっている。トイレに手鏡を持ち込み、今朝の”奴”を確認する。 「ついに来た!!」 昨日の攻撃が奴の位置を移動させたのだ。鏡には表面にうっすらと白濁色がかった奴の姿が浮かんでいた。 「今日こそ勝てるかもしれない。無駄ではなかった。」 私は洋式便所に腰掛け、精神を集中する。勝負は一発だ。恐る恐る両方の親指で、オデキの両脇をゆっくり押し上げてみる。もうためらいはしない。今の私の気力ならクルミさえ押しつぶすことだろう。お前はもう死んでいる。だ。 「ふんっ。」 その直後、 「ドパシュー」 という音がしたような気がした。奴は見事に割れた。私は芯を押し出したのだ。 便座から立ち上がり、便器を覗き込んで見る。そこには 「ニキビの芯状のものが遠足をしていた。」 私はついに痛みから解き放たれたのだ。 「勝った!」 勝利感にひたったままで、便所の水を流す。 「グッバイ・・・。」 長く苦しい闘いは終わりを告げた。あとは風呂に入り奇麗に洗えば、ひだち薬だ。服をきても痛みを感じない。やはり先程の”芯”が痛みを伝達していたのだ。芯があるとないとで、この違い。人間の体とは不思議なものだ。 心も軽い。朝食も美味い。今日の学校の授業は、きっと耳に入ることだろう。 「行ってきまーす。」 自転車に乗り、学校へ向かう。 この時、朝の椅子ではわからない位置であったのか、自転車のサドルに何か当たるものがある。 それは今まで左をかばいすぎて出来てしまった、右ケツのオデキであった。 |
完
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