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若き日の宴
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嫁「年末の大掃除の前に部屋の整理をしろ」 嫁は冷淡に言い放った。 確かに私の部屋は散乱している。CDにゲームソフト、読みかけの探偵小説、足の踏み場もないくらいにモノが散らばっている。 特にCDがヒドかった。高校の時からCDを買いはじめて、一度も中古屋に売りに行ったことはない。たまる一方なのは当たり前だ。 押し入れの奥には聴かなくなったCDのダンボールがしまってある。 そろそろ畳の上に散らばっているCDを、押し入れに片付ける時がきた。 1年に1回の大掃除だ。 押し入れの手前に鎮座している8bit〜16bitゲームマシンを丁重に横にかわしてマジックペンで「CD用」と汚い字で書かれてある(私の字)ダンボールを引っ張り出し、ガムテープを剥がし取る。 隙間を埋めていた新聞紙を取り出して出ていたCDを入れると丁度いい具合に収まった。 「さようなら”ビーズ”のベスト。さようなら”ウインク”。」 ビーズは今年売れまくったモンスターアルバムで「ベストなら外れはなかろう」と思い購入。ウインクは3年前からずっと傍に置いていたのだが、もうそろそろ潮時であろう。たまに聴く初期の松田聖子やウインクのようなアイドルポップは何も考えずに聴けるのでBGMに丁度よいのだ。 そうして数十枚のCDに別れを告げながらダンボールの中を眺めていた時 「おおっ。これは懐かしい!シニータの”TOY BOY”じゃないか。」 シニータとは映画の話ではない。あれは”ニキータ”だ。 ちなみにニキータを続けて2回言えば「ニキータに聞いた」になるのだが、それがどうしたと自分でツッコんでおく。 ジャンルで言えば80年代に大流行した”ユーロビート”。ディスコでかかりまくった曲だ。 あの当時、今の日本でいう”小室”に相当したのがシニータにも曲を提供したイギリスの”ストック””エイトキン””ウォーターマン”の3人からなるヒット曲製造メーカーであった。 彼等が関わった曲は大抵ヒットした。 デッド・オア・ライブやカイリーミノーグ特に昔の曲をデジタルビートで蘇らせたバナナラマの”ヴィーナス”などは皆さんも一度は聴いたことがあるだろう。 他には西川ひろしを外人にしたような(暴言)リックアストリーも何曲かヒットを飛ばした。 ユーロビートを買い漁ったのは、もちろんディスコで踊るためである。 高校を卒業し古い車を手に入れ、高校の時に同じクラスだった2人とある計画を立てた。 「姫路はアカン。やっぱり神戸に行かな話にならん。」 「そうやなぁ。神戸にはボディコンギャル(※死語)がいっぱいおるハズやで。」 「いっちょキメて(※死語)行くか。」 今では”キャミソール”みたいな、ほとんど下着みたいな服があるが、当時のイケイケギャルのコスチュームはやはりボディコンであった。 身体のラインがビシッと出るボディコンは刺激的で、特に鮮やかな蛍光色は男心を狂わせた。しまいには”ボディコン”という単語だけでも欲情する始末。 あの頃は若かった…。 県外のディスコは初体験である。期待に胸を膨らませて(どんな期待だ!)週末我々3人は未開の地、夜の神戸を目指した。 もう10年以上も前の話なので記憶が定かではないが、我々が目指したのは確か神戸の山裾のホテルの地下にあったディスコ”キンクイ”であった。 「やっぱ行くならビッグネームのキンクイしかないで。」 3人の意見は一致した。 やはり神戸の街は100万ドルの夜景と言われるだけあり、賑やかであった。 姫路の商店街など8時には皆閉まってしまい、値段に換算すれば”5万ドル”くらいの夜景にしかなっていないだろう。 車を近くの駐車場に停めて歩きだす。 週末だけあり、街は若者で溢れていた。毎週このような調子なのであろう。姫路でこれくらいの人数を集めようと思ったら”お城祭り”くらいしかない。 ここは毎週が”お城まつり”なのだ。 少し圧倒されながらディスコへ向かう。ヘタにビビってしまえば田舎者であることがバレてしまう。不安であったとしても 「慣れっこだよ。」 という表情を維持しなければならない。 巨大なホテルに若者の集団。どうやらあそこが入り口らしい。3人は平静を装いながら入り口に近づく。しかし顔は冷静でも3人がピタッと体を寄せ合って歩く様は、ハタから見ればさぞかしいじらしかった事であろう。 そうして、か弱く密着したまま階段を降りようとしたその時、黒いスーツを着たジャニーズ系&ソース顔の男が、馴れ馴れしく手を差し出し我々の行く手を遮った。男は、ここでは”微笑む”という表現がピッタリくるだろう。 「本日は正装の方のみの御入場となっております。」 我々3人はその場で硬直した。 一体どうしたらよいのか? 立ち止まっているため、順番を抜かしていく正装した男女。 ジーンズ姿の我々を見ると、ボディコンの女は笑うのをガマンしながら階段を降りていった。これ以上の屈辱はない。そんな話聞いていない。 「あのう僕達、姫路から来たんですけども…。」 バカヤロウ!そんな姫路からだの九州からだの関係ない。 どっから来ようが黒服の同情をそんなもんで買える訳がなかろう。余計な事を口にするな。恥の上塗りではないか。 仕方なく我々3人はその場を後にした。 そのまま立ち去るのも、あまりに恥ずかしかったので 「ネクタイの日なんて聞いてなかったよね。」 「この前はジーンズで入ったよね。」 などと、大声でウソばっか言いながら立ち去った。 「神戸って冷たいよな…。」 先ほど姫路から〜発言をした友人の一人がポツリと漏らした。 確かに冷たい。入れてくれてもいいではないか。 ネクタイなどしめて、中で何をするのだ? 踊るのだろう?踊るならジーンズの方が適していよう。 思い出してもムカツいたのが、スーツに身を固め、冷笑しながら中に入っていった男達。「脱落者」を見る目であった。 ディスコの中でも、激しいギャルの争奪戦が繰り広げられるのであろう。競争相手は少ない程よい。そうして我々のようなジーンズ組を笑うことによって、周りのギャルからディスコ通と思われたいのであろう。 先週はオマエもジーンズで来たんじゃないのか? 何にせよ我々は愛川欣也の言葉を待つまでもなく、その場で「ハイ!消えた!!」であった。 肩を落として街を歩く男3人。 「これからどうしよう?」 「せっかく神戸まで来たというのに…。」 「マハラジャにこだわるのはやめよう。別のディスコに行こう。」 我々はジーンズでも入れるディスコを探すべく、海側に向かって歩きだした。 しばらく歩いていると、ディスコの看板が目に飛び込んできた。 聞いたことのない店だ。場所はビルの6Fにあるらしい。 そのエレベーターの前はジーンズ姿の若者も順番を待っていた。 「あそこならジーンズでもオッケーみたいだ。あそこにしよう。」 我々3人は迷わずエレベーターに飛び乗った。エレベーターは6Fに直行する。そしてドアが開く。 「デ、デカイ…。」 姫路のディスコとは比べ物にならない広さであった。暗めの照明でも確認できる、ゆったりとしたダンスフロアー。入り口に立つ黒服も、先ほどのマハラジャとは違い、庶民的な兄ちゃんなのが気に入った。 我々3人は笑顔で中に招き入れられた。ボーイに先導されるがままに後を遅れまいとついていく。 イスが置いていない背の高いテーブルに3つの水が置かれた。ここのテーブルはみんな立ちっぱなしのようであった。 「こちらドリンク券です。カウンターはあちらになっております。」 踊る前に飲むか。中の様子を見ながらバーのカウンターへ向かう。男と女の割合は4対6くらいであった。もしかしたらナンパできるかもしれない。ミニバーのカウンターには女の子もたくさんいた。 友人は一番に注文を取る。 「す、スクリュードライバー。」 ああっ。スクリュードライバーは俺の専売特許じゃないか。 何故か雰囲気的に「僕もおんなじの下さい。」というのがはばかれるような感じであったので、私は急いでメニューを探した。しかし目に付くところにメニューはない。 スクリュードライバーの他に何があったっけ? ポパイとかホットドックに何か書いてあったハズだ。 私はうろ覚えの為小声で注文した。 「ええっと、か、カンパリーソーダ。」 あるかないか知らない。賭けであった。続いてマハラジャで姫路から発言をした気弱な友人の番だ。彼は完全にネタ切れであった。 「そ、ソルチードック…(汗)。」 3人とも飲んだことがあるのはスクリュードライバーだけ。あとはみんな受け売りである。しかしオーダーは無事通され我々は恥をかかずに済んだのであった。 あまり待たされることなく酒はカウンターに運ばれてきた。 「お、おい。なんだオマエの酒は?」 私は小声で友人のグラスを指さした。 「こ、これ塩だよ。飲むところにグルリと一周。どーやってくっつけたんだ?」 オマエは声がデカイ! 周りの女の子に聞かれたら恥ずかしいじゃないか。毎回飲んでいる顔をしろ! 気弱な友人はそんな私の心中を察しもせずグラスをよく見つめた後、更にこう続けた。 「これを飲むときの作法は、周りの塩を全部舐めた後で飲むのか?」 知るか!んなもん!! お前が注文したんだろうが。お前が好きなように飲め。第一声がデカイ。こんな所で作法もクソもあるか。男ならワイルドにグッと行け。 「さぁ、知ってる唄が流れているうちにフロアーに行こうぜ。」 我々3人は予習バッチシの余裕の気持ちからダンスフロアーに躍り出た。あぁ、胸に響くメロディ、腰にくるビート。 アースウインド&ファイアーの「セプテンバー」 アフリカの「ザ・ビーチ」 バナナラマの「ラブ・トルゥース&オネスティ」 カバーガールズの「ショウミー」 そして終盤はマイケルフォーチュナティの「ハレルヤ」だ。 会場全体が唄う。”ハレル〜ヤ!ハレル〜ヤ!”そこにタイミングよくブースからDJの声が響き渡る。 ”今日来てくれている「チカコ」ちゃんは本日20回目のバースデー。これで大人の仲間入りだね。 みんな祝いの声ヨロシク!” 会場全体「フゥーッ!」(激しく腰をシェイキン!) 今にして思えば、何が私をそこまでファンキーに駆り立てたのかよくわからない。ただ、ここでは我を忘れて朝まで踊り続けるのがルールなのだ。考えてはいけない。考えれば即”萎える”。 いい汗をかいた。友人2人を残し私は酒を飲みにテーブルに戻った。いつの間にか隣のテーブルにはカワイイ女の子が陣取っていた。やっぱ神戸の女の子はオシャレだ。 私「ねぇ、君ひとり?」 心臓をバコバコさせながらやっとそれだけを言うと、私は酒をあおった。 女「ううん。あと2人はアッチ。」 女の子はダンスフロアーを指さした。 女「一緒にお酒飲む?」 私はビックリして首をガクガク動かしてしまった。こんなシチュエーションは人生、後にも先にもこの時だけ。なんてツイているんだ。ウソのようだ。 10年以上も前の話だが、そのカワイイ女の子のことは今でも忘れない。ショートカットでピアスをしていたのを憶えている。 私「君、いくつ?」 女「15歳…。」 私「ええーっ。」 本当に驚いた。どう見ても19歳だ。女は魔物だ。 私「15歳って、もう夜中の2時だぞ。家とか大丈夫なのか?」 女「(笑)。」 私の質問がオヤジテイストだったので女の子を笑わせてしまった。神戸では15歳の女の子が盛り場にいても別に珍しい話ではないらしい。姫路の田舎とは大違いだ。 笑ってリラックスしたのか女の子は緊張が解けたようであった。 女「ねぇ、車で来たの?」 私「えっ?う、うん。」 女「何乗ってるの?」 私「あ、赤いプレリュード…。」 私達が乗ってきたのは赤いファミリアだ。ハッチバックの。シートはガムテープで切れ目を補修してある。 女「ええっ!プレリュード? 私大好き。乗せて乗せて。」 私は返事に困った。まさかこのような展開になるとは思わなかった。ただひきつった笑いしか出せなかった。 それからというものの、女の子は更にリラックスして私と打ち解けた。よっぽどプレリュードが好きなようだ。 女「これ、友達に借りた服なんだけど、私にはちょっと腰とかキツくて…。」 私「そう?そうは見えないけど…。」 女「さわってみてパンパンなんだから。」 カワイイ顔して何てことを言うんだ。しかし私は 遠慮なく触らせてもらいました(大汗) 女「今日は結構踊ったから汗かいちゃった。早くシャワーあびたいよー。」 これはどういう意味だったのだろう?やっぱり誘っていると考えていいのだろうか? 私は鈍感で無神経な方なので、いつも恥をかくのだが(あっ他のネタ思い出した。)この時は完全にその気があったと考えて、まず間違いないだろう。 踊り終えた友人2人が帰ってきた。2人も驚いている。 「オ、オマエ、ナンパ成功したの?」 「いや、ただなんとなく…。」 「相手は?」 「3人で来てるって。」 友人2人はこれ以上はないくらいに満面の笑みをたたえた。振り返ると、向こうのテーブルでも作戦会議が開かれている様子であった。 さっきの女の子と目が合うと、女の子が小走りで駆け寄ってきた。 女「じゃあ、下のエレベーターの入り口の所で待ってるから車で来てね。」 もうすっかり仲良しさんである。なんか鼻が高かった。6人一緒にエレベーターで降りると我々は駐車場の方へ急いだ。 「おい。呉、メチャクチャラッキーじゃないか。」 「みんな、どーしよう。俺、プレリュードで来た!って言っちゃったよ。」 「何ぃ?」 「こんなことになるなんて思わなかった。訂正できなかったし…。」 「中古ファミリアでディスコの入り口に横付けしたら、またいい恥をかくぞ。」 「…。」 「仕方ない。決をとるぞ。」 結局我々はバイパスに乗り姫路まで爆走した。 私はあのショートカットの子の事を思い出しながら、悲しく家路についたのである。もし私がプレリュードに乗ってきていたら、素晴らしいロマンスがあったに違いない。 今でも悔やまれる若き日の思い出である。 |
完
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