なにゆえ?


結婚に至るまで女性には5.6回フラれた。

今の嫁さんは結婚を頼み込んだので、その末路は我が妻との闘争に詳しく記されている。

性格の不一致、価値観の相違、難しい言葉を並べる必要はない。ただ、女の子が自分の事をお気に召さなかっただけのことだ。

今にしてみれば何故あれほどまでにショックを受け涙したのか。

今でも忘れない。

フラれた次の日、恋人を紹介してくれた親友の家に遊びに行った。

その友人は彼女と付き合っており私はその親友の彼女の友人を紹介されたのだった。まぁよくある話だ。

私は「もしかして何か新情報が得られるかも」といった下心を持ちながら友人の家に行った。親友の事など、どうでもよい。

家に招き入れる友人。表情は硬い。もう伝わっているようだ。

親友は黙ってコーヒーを入れてくれた。

呉「か、彼女、何か言ってなかった?」

友「同じクラスで、好きな男…できたんだって…。」

それでか。それで急に冷たくなってしまったのか。

窓から夕陽のオレンジが流れ込んでくる。親友はターンテーブルにレコードを乗せる。大滝泳一の”雨のウエンズデイ”だ。

親友のベットの上で体操座りをして必死に悲しみに耐える。

親友は無言で隣に座り私の頭を抱き寄せた。

その途端涙が溢れ出た。

人の肌の温もりが私の涙腺のスイッチを入れてしまったのだろう。

有り難かった、親友の気遣いが嬉しかった。私の涙は親友のトレーナーの肩口を思い切り濡らしてしまった。

私は顔を上げた。その時の親友を私は一生忘れないだろう。

親友は目をクワッと見開いて笑うのをこらえていた!

君だよ。奥田君。

人間って信用できないよね。

勘違いが悲劇を生むことがある。その上受けなくともよいダメージを受けてしまうこともある。

私はその後、未練がましくもそのフラれた彼女に会いにいったのだ。

長い経験から言わせてもらおう。男は過去に生き、女は未来に生きる。

終った男の扱いなどカス同然なのである。

その娘は県住に住んでいた。

雪が降っていた。外はかなり寒かった。

思いきってドアベルを押す。

彼女の自転車はあった。学校から帰っているハズだ。会ってもう一度話をしてやり直したい。

ドアの向こうでクツを踏むかすかな物音が聞こえた。

今、彼女はドアの向こうで眼鏡越しに私を見ている。

カギは開かない。

しばらくの静寂の後、もう一度ドアベルを押してみた。

仕方なさそうにドアロックがガチャリと音をたてた。

2ケ月ぶりの再会。

呉「げ、元気?・・・。」

女「なんか用?」

彼女は私の質問に答えず話を進めた。あの頃の笑顔はもうどこにも見当たらない。

それは私だけの幻影。私だけの妄想。

思いきって自転車に乗って来る間に考えた想いを彼女に告げた。

呉「もう一度やりなおしたい・・・。」

女「…。」

どれくらい時間がたっただろう。彼女は私から視線をそらし一点を見つめたまま返事をしない。かなり悩んでいる。

脈があるのか?

それとも、とことん迷惑しているのか?

呉「仕方ないな。あきらめるよ・・・。」

私の方から切り上げた。これ以上はツラいだけだ。私は彼女に背を向け県住の階段の踊り場から立ち去ろうと階段を降りたその時、

彼女のサンダルの下りてくる音が響いたのだ。

私の足は止まった。さっきまでの沈黙は悩んでいたのだ。

きっと私を懲らしめようと黙り込んでいただけなのだ。

見ろ。あの慌てよう。

ここでストレートに折れるのもシャクだ。困らせてやろう。

呉「男が一度決めたんだ。もう惑わさないでくれ。」

振り向きながらそう言う。

彼女はそこに居た。

彼女は踊り場から外にガムを吐き捨てに来ただけであった!!

宙を彷徨う私のセリフ。目が点になっている元彼女。

よく考えてみれば、私がこんな大事な話をしているのに彼女は最初からガムを噛みながら話を聞いていたのだ。

そんな態度、見れば察しがつくよね。

彼女は行きのスピードとはまったく逆で、ときどき振り返りながら私を呆れた顔で見つめ、無言で家へと帰っていった。

私は雪の降るなか自転車立ちこぎで家まで爆走した。

まつうら。アンタだよ。

人間って悲しいよね。

人間には人生の内に一度だけスポットライトが当たるようになっている。

しかし、その一度だけのチャンスを勘違いするとエライ目に会う。

あれは高校を卒業して自動車学校に通っていた頃だ。

男も女も、学生服を脱ぎ捨て少し大人の雰囲気。男は背伸びしてムースをつける。女も背伸びして濃い口紅をつける。

ここは車の免許を取る学校。それは大人の世界の入り口。

講師の話を頬杖をつきながら聞いているショートカットの女の子にヒトメボレしてしまった。

不覚だった。朝陽の差し込み具合が彼女を天使に見せたのだ。

次の授業から意識して隣に座った。

本編にはカンケーないけど、振り返れば俺ってストーカーっぽいね。

熱い視線と、いかしたトークで彼女を笑わせることに成功した私は自信をつけていった。

そんなある日、場所は学校の校門だ。

5.60人の生徒が一斉に学校の入り口に向かう。

後ろから聞き覚えのある声…。

「おーい」

私は自分の目を疑った。

あの娘だ。

あの娘があろうことか手をあげて小走りでこちらに駆け寄ってくる。

それは交際を申し込んだ次の日でもあった。

天にも昇りそうな気持ちとはこの事だ。

「お、おーい」

ここで読者は「呉さん、話をつくってるよ…。」

と思われることであろう。しかしこれはウソではない。三流ドラマの展開よろしく、皆さんの予想どおり

彼女は私の前を歩いていた女の子に駆け寄っていった。

それは悲惨な交差であった。グランドクロスである。

周りにいた生徒たちも立ち止まったような気がした。

振り向くと二人は信じられないものを見るような目で私を見つめていた。まだ、半分手を上げているワタシ…。

そのまま校門を出て帰宅したのは言うまでもない

結局、その後私はギリギリまで自動車学校を休み、私の大恥シーンを目撃した生徒が卒業してしまうのを待ってから登校した。

神様って時に残酷なイタズラをするよね。

これらの話が何かの教訓になれば幸いである。

(何真面目に〆てるんだよ!)