発狂! オバちゃんトライアングル


学生時代にアルバイトをして、お金を稼いだ経験のある方は多いと思う。今まで親のスネを噛り続け、シンドイ思いをしてやっと貰える給料。

親「アンタも自分で稼ぐようになったらお金のありがたみがわかるよ。」

親にそう言われ続け、

「そうだよなぁ、自分で稼いだら勿体なくてムダ使いできないんだろーなー。」

なんて漠然と考えていたものの、イザ働いてみたらシンドイかわりに、入ってくるお金は「月のお小遣い1万円」の比ではなく、高校生が初めて手にするまとまったお金、

約9万円!

高校生にこんな大金を握らせてはいけません。私は物の怪が取り憑いたような目になり、ゲームハード数台、ゲームソフト数本、レコード、プラモ、小説を、怒涛の勢いで買い漁り、

わずか3日で使い切った。

もうウハウハの病みつきである。

「バイトっていいよなぁ〜」

家に食費を入れることなんて、これっぽっちも考えないドラ息子の誕生である。

一度このような使い方を体が憶えてしまえば、なかなか昔の生活に戻るのは難しい話だ。

「のどが乾いた」ら喫茶店。「お昼になったら」モスバーガー。(マクドナルドより昇進)

自然に贅沢なライフスタイルに変貌する。

この時代に”援助交際”というものが存在しなくて本当によかったと思う。もしあれば、確実に私は物欲のため、オジサマに体を売り払っていたことだろう。(男はないっつーの!)

なんにせよ、すっかり万札の下僕に成り下がった私は、次の月もアルバイトをする事に決めた。友人の誘いで働きだした「お歳暮」の梱包のアルバイトだ。

ここは学生のアルバイトが多く、初心者でも憶えやすい仕事であった。

大きい机に二人づつ向き合って四人構成。倉庫の2階に40人近くの人が働いていた。

まだ初心者であった私は、”ベテラン”のオバさん三人組のテーブルに配属された。

最初の一ヶ月目は慣れない事もあり、時間内に仕事をさばくだけで精一杯であったが、二ヶ月目にもなると、ある程度仕事の流れもわかり気持ちにも余裕がでてきた。

最初は仕事だけで、全然話をしなかったオバさん達も、私に余裕が出てきたのに気がつくと日に日に話しかけてくるようになってきた。

ここでの仕事は、センターから送られてくる注文伝票の商品を倉庫まで取りに行き自分の机の横に持ってきて溜めておき、デパートの包装紙に巻いて、伝票を貼ってベルトコンベアーに置く。という流れだ。

最初は全然耳に入らなかったが、余裕ができオバさん連中の会話が耳に入りだすと、お歳暮ウイスキーをセロテープで包装中、そのまま包装紙につけたテープを引っ張りすぎてやぶいてしまうような、耳を疑うような会話が交わされていた。

それは三人のうち誰かが一人欠けた時に発生する。

オバちゃん達は手際が良く、台車を持って一度に大量の商品を自分の横に持ってくる。何度も取りに行くのがメンドウくさいからだ。

であるから、一度倉庫に行くと10分くらいは帰ってこないのだ。

その時、残ったオバちゃん二人は、絶対に倉庫に行ったオバちゃんの話題を持ちだしてくる。

A「ちょっと。Bさん。今日のCさんの頭見た?」

B「見た見た。すごいパンチパーマやな(爆笑)

A「いくら手入れが楽やからって、パンチパーマはチョット(爆笑)」

B「私もパーマあててるけど、ちょっとパンチは勇気ないわ。」

A「女やめたくないもんな(激笑)

こうして二人が「ヒーヒー」笑っているところへ、問題のCさんが帰ってくる。

すると二人は「あー面白かった。あっ、おかえりぃ。ほな仕事しよか」

と、まるで何事もなかったように仕事を始めるのだ。

私は包装している手が止まって、ボーゼンとオバさん達を見ていた。

あまりにボーゼンとしすぎて「兄ちゃん。仕事しいや。」と注意を受けたくらいだ。

ウブな高校男子にとって、それは衝撃的な人間模様であった。

「そうか、AさんとBさんが仲良しで、Cさんを笑い者にしているんだな。」

知りあいも近くにおらず、姑息にも私はAさんとBさん側につくことに決めた。

しかしバイトを続けるたびに、この図式がどうもオカシイことに気がついた。

ある日、Bさんが倉庫に向かった。

A「なぁなぁ。Cさん。Bさんの孫の写真、見せられた?」

C「見た見た(笑)。Bさんソックリやろ。

A「私ビックリしたわ(笑)。だっこしてるんやけど、
  孫と顔おんなじやん(爆笑)。」

C「あそこまで似んでもなぁ。違う所ってシワがないだけやわ(笑)。」

A「孫、男やった?女やった?」

C「男みたいやで。」

A「そりゃよかったなぁ(爆笑)

C「もし女やったらなぁ(激笑)

私は仕事をしている手が完全にストップしてしまい、信じられないものを見るような目で、二人を見つめていた。

A・C「兄ちゃんも、そう思わへんか?」

私「えっ? い、いや。僕は写真見ていないんで・・・。」

そう返事をするのがやっとであった。

「ややこしくなってきたぞ。そうなると、Aさんがここの”ドン”という訳だな。Aさんには逆らわないようにしよう。」

自分なりに理解を越えた人間関係を再解釈していると、今度はAさんが倉庫に行く番になった。

「さて、ドンが居ない間は、二人ともおとなしくしているんだろうか?」

倉庫の奥にAさんの影が消えると、待ってました! とばかりに二人の仕事をする手が止まった。

B「ちょっと。Cさん。Cさん。」

C「何?」

B「ここのパイプイス古いやんか。」

C「そうやなぁ。年代もんやなぁ。」

B「Aさんのイス見てみ?」

C「うわぁ。すごいサビや。」

B「Aさんの体重やったら、
 
もうすぐ折れるんと違う?(爆笑)

C「あのイスで、あの体重を支えるのは酷やわ(笑)

B「補強しとかなケガするで。」

C「盆栽みたいに、イスに
 ”添え木”したらエエやん(激笑)。」

「こいつらの頭の中は、一体どういう構造をしているんだ?」

私が再びボーゼンとしていると、オバちゃん二人は私に目をやり、

B・C「兄ちゃんも危ないと思うやろ?このイス。」

私「えっ? ええ、危なそうですね(苦笑)。」

流れに逆らえず、同意するしか方法はなかった。

きっとオバちゃん達は、何年もこうやってお互いの悪口を言いあっているのだろう。

そうして「まさか自分の悪口だけは言われていまい!」と信じているハズだ。

ここでは「仲間」や「同僚」といった言葉は存在しなかった。あるのは「時間潰しに使われる悪口」だけであった。

ある日持ち場につくと、様子がオカシイ事に気がついた。

私「お、おはようございます。」

私の挨拶に誰一人返事をしてこなかった。

上着を置いて机の前に立つと、私の分の注文伝票が一枚も置かれていない。

私「あ、あのうAさん?僕の伝票が一枚もないんですけど・・。」

しばらくの沈黙の後、Aさんは私を睨みつけながらこう告げた。

A「パイプイス。あんたのイスと交換しといたし。

な、なんで話が漏れているんだ?! 

私は慌てて残り二人のオバさんに目をやると、

オバさん達は下を向いて必死に仕事をしていた!

どうやら私は上手く利用されたみたいだ。

Aさんとの間で、きっと何かトラブルが起こったのだ。

スペクトルマンの敵、「宇宙猿人ゴリとラー」のような風貌を持つAさんを怒らせたら、さぞかし怖いことだろう。

そこでAさんの怒りの矛先を変える為に、

「あの兄ちゃん。Aさんのイスが折れそうですね。って笑ってたで」

と、密告したに違いない。

そういう態度だ。

私の純朴な精神は発狂寸前であった。

なぜ私だけが悪者にならなければいけないのか!

なぜオバちゃん二人は何も知らない若者に罪をなすりつけて平然とできるのか!

きっと私が悪いのだろう。私の方にスキはあった。

あの時「イスは、そう簡単に折れませんよ。」とさえ言っていればこのような結果にならなかったのだ。世渡りの修業不足が招いた当然の結果なのだ。後悔しても仕方がない。

きっと何人もの若者が、このオバちゃん達の保身のために犠牲になったのだろう。

私も毒牙にかかった一人なのだろう。

いろいろと大人の厳しい世界を教えられた、高校二年の熱い夏であった。