
![]()
|
恋の駆け引き
|
|
前勤めていた会社の同じ年齢である友人は石黒賢に似ていた。決してブ男ではない。 しかし現在彼は、彼女イナイ歴が”もうすぐ10年”に手が届こうとしている。 たまーに会ってお茶するのだが、この日曜日に会った時、いつもの人懐っこい笑顔は影を潜め、いくぶん沈痛な面持ちであった。 呉「ど、どしたの? またフラれた?」 賢「い、いや。ちょっとわからへんことがあってな…。告白しようか悩んでる。」 彼は真面目すぎるくらいのマジメ人間だ。深刻になりやすいタイプである。 話の内容を要約すると、彼は最近コンパに招待された。10人くらいの集まりで、男は28〜30歳、女は20〜22歳くらいのメンツ。居酒屋、カラオケといった定番コースの後、解散になったわけだが、彼はそのうちの二十歳の女の子に、どうも ヒトメボレ をしてしまったらしい。 呉「ハタチかぁ…。おおよそ10歳違うな。」 賢「そうやねん。話題がなぁ、みつけにくい。」 女の子の気持ちがまるで掴めず、ほとほと困り果てた様子であった。 呉「でもなぁ、女の子も30歳の独身男を見るとき、絶対に”貯金500万以上あるハズ”みたいな事を先に考えて接すると思うぞ。」 賢「そ、そんな事考えているのか?!」 呉「ワシらの想像以上に絶対にシビアだって。」 賢「そうかもなぁ。ワシらの若い頃とは違うもんなぁ。」 呉「ワシらが高校生の時なんか、スカートの丈なんて足首のすぐ上のあたりやったなぁ。」 賢「年間通じて滅多にフトモモなんか見られへんかったなぁ。」 呉「長ければ長いほど”ワル”の証やった。」 賢「今はエエ時代やなぁ…」 呉「丸見えやもんなぁ…ってオマエ。話それてないか?」 賢「そやそや。それでな、コンパの話に戻るけども、結構エエムードになったんや。」 呉「最初に言うとくけど、若い女の子との駆け引きは、 悪い方にとったぐらいで丁度ええぞ。」 賢「どういう意味や?」 呉「たとえコンパでも最近の女の子はだな、援助交際している娘とかいるじゃないか。だからコンパでも”ケチなオヤジ”みたいに内心…。」 賢「まぁ聞けや。で、二次会のカラオケの話なんやけど、俺思いきって彼女にケータイの番号聞いたんや。」 呉「ウソォ。オマエが? よく根性出せたなぁ。」 賢「だってみんな聞いてるし、半分つられてな。」 呉「ほうほう。それで番号もらえたんか?」 賢「もらえたんやけど、アクシデントがあってな。」 呉「アクシデント??」 賢「俺メッチャ嬉しくなって、トイレに行くフリして電話してみたんや。」 呉「確認のためか」 賢「そうしたら全然違う人が出てよ。」 呉「遊ばれてる。絶対にオマエ遊ばれてるわ。」 賢「ま、まぁ聞けや。それで戻った時に彼女に問いただしたんや。」 呉「その結果で真理を見極めんでどうする!!」 賢「彼女の言い分も聞いてやれや。彼女ケータイ最近買い替えたらしくて今日はケータイ家に置いてきてしもうて、番号暗記してないらしいんや。」 呉「オマエ、それ真に受けてるんか??」 賢「残念やった…。」 彼は本当に善人だとつくづく思う。ストレートな奴だ。相手が「前の番号」と言えば、疑うこともなくそれが真実。今どきの高校男子の方がよっぽど”策士”だと思うぞ。 長い間独り身が続いたせいで、駆け引きのコツが完全にサビついている。 呉「それからそのカワイコちゃんとは進展したのか?」 賢「それがな、その後その娘友達とコソコソ話して、」 呉「アホウ、多分「ホンマにケータイにかけよったで」って笑っとるんじゃ。」 賢「違うって、そのコソコソ話の後、俺の隣にその娘きたもん。席替えの話やって。」 呉「もっとからかうつもりなんやって。」 彼の話は俄然熱をおびてきた。久しぶりのコンパ。ヒトメボレの娘と隣同士。盛り上がったであろう若者達とのカラオケ大会。 賢「聞いてくれ。聞いてくれ。その女の子俺の隣に座った時、ピターッとこう体ひっつけてな、オマエもビビルで。こぉーんな短いスカートやし、胸元はVやしな。カラオケの本持って、 「次どれにする?」 って一緒に本見たんや。髪の毛はエエにおいしてはるし、ホンマ幸せや。女の友達もワシらの行動をチラチラ見てるのがわかるんや。それでな、最近の若い娘は大胆やで。ひっついた上に腕組んできたんや。胸に思いっ切り腕が当たるがな。オマエも絶対ひるむぞ。俺はひるまんとジッとしてたけどな(笑)。 もう顔もお互い30cm以内の大接近や。そないしてるうちに彼女が「リクエストしていい?」って言うたんじゃ。メッチャ可愛い声や。恥ずかしいけど”唄おう”思うたもん。 「何でも唄うで」 言うて彼女みたら、なんか目が酔うてはるんかウルウルしてるんや。ほんならオマエ、彼女がなんと俺の耳元でコソコソ話してくるやないか、 「私、オフコースの”さよなら”が聞きた…」」 |
呉「忘れろ」
完
![]()