温室育ち

 

暴力って何も解決しないと思うわけなのよね。

だって力の強い方の一方的勝利じゃないのさ。そこには”相互理解”とか”歩み寄り”なんて一切無い世界なのよね。

「力が正義なりっ!」って、北斗の拳のラオウじゃないんだからさぁ、手の早い人ほど「俺のこの暴力は正しいのか?」って自問自答するクセをつけておかないと大人になった時困ると思うのよね。心配してあげてるのよね。

でもそういう人達ほど出世してるって、世の中皮肉なもんじゃないのさ。ケンカに勝ってきた奴は、社会に出ても勝ち続けていくって笑っちゃうわよね。

で、殴りあう前にケンカになるのを避けたり、悪くもないのに先に謝っちゃったりするのが続くとね、クラスの男子連中から自動的に”温室育ち”の称号が与えられるわけなのよね。

男だったら、これを”侮辱”と感じなきゃいけないらしいのね。

でも殴り合いして一体なんになるのさ。物事を力で解決する人なんかとは、一生わかりあえないと思うのよね。

社会人になったらさ、刑事事件になっちゃうから暴力なんて大人ならふるわないじゃないの。それでもね。最近あったのよ。学生時代以来の暴力の匂いを嗅いだ体験がさ。

よく商店街の通りの端っこに灰皿とかあるじゃないの。あそこに突っ立ってタバコを「プカー」ってやってたのね。

天気もいいしさ、お目当ての小説も買えたから気分的に油断してたんだろうね。

後ろをよく見ずにさ、体動かしたら人とぶつかったわけよ。

「いけね」と思って慌てて後ろ振り返ったらさ、15〜6歳くらいの「チーマー」っぽい連中が4〜5人いたのよね。

で、何でアイツら春先なのに原色の毛糸の帽子をかぶってるわけ? ジーパンからジャラジャラ音たてて垂れてるチェーンも、視覚的に教育的指導だよね。

「やべっ」って思ったよ。その時一人だったしさ、相手は5人でしょ、よくドラマで主人公が4〜5人とケンカしてさ、あっさり勝つんだけどあれって絶対ウソよね。

結末は囲まれてボコボコ以外にないわ。前歯一本欠けて帰宅するのってイヤだものね。

ああいうテレビドラマを観て「立ち回りさえ上手くいけば… あるいは…」ってホントにケンカを挑んじゃう奴は、バカよね。勝てるように視聴者を錯覚させちゃうテレビの功罪よ。

で、相手に気が付いたとき、急に車の前に飛びだした猫のように固まってたと思うのよね。

相手が悪すぎるもの。何やったってセーフな年頃じゃないのさ。やらなきゃソン。って顔つきだったもの。何がソンなものですか。

最近のニュースとかでさぁ、青少年のバタフライナイフの携帯ってクローズアップされてたじゃないの。そんなの絶対マズイよね。私の可愛いお腹を、バタフライナイフで豆腐みたいにプスプスやられるのは。

死んじゃうじゃないのさ。アイツら加減ってもん知らないのよ。怒らせるだけ一般ピープルはソンなの。

この二、三秒のあいだに、私の脳細胞はフル回転したわ。

「まず謝らなきゃ…」

でも言葉を慎重に選ばないと、どエライ事になりそうなムードだったのよ。

「ゴメンな…」

自分的にはスッゲーフレンドリーな言葉だと思うのよね。

でも、これ聞いて相手がその”馴れ馴れしさ”に怒りターボさせたら元も子もないわけなのよね。だいたいにおいて、アイツら、こういう時の会話って、ボキャブラリーがほとんどゼロに等しいもんだからさ、

「なんじゃ ワレ」

「なんやと コラ」

「やるんか オェ」

の3つくらいしかセットされてないのよね。私から言わせれば「もっと本読めよ」って言いたいんだけど、でも今はそんな場合じゃないのよね。

それでもいくら相手が4〜5人とはいえ、こっちは30歳ですもの。大人のプライドってもんも少しくらいはあるのよね。商店街は人いっぱい歩いてるし、そんな中で

「スイマセンでした」

なんて恥ずかしくって言えるハズないじゃないのさ。

ここは大人の威厳で接すれば、アイツらも同年代とするケンカとは違うことにきっと気付くハズよ。私、そこに賭けたわ。

それでイロイロ考えた揚げ句、真正面から堂々と相手の目を見て謝ったの。

「失敬…」

すると何て言うのかしら。ああいう年中ラリってるような人達の目。本当のところはビビって視線をそらすことが出来なかっただけなんだけど、カメラあるでしょ? 目がカメラみたいだったのよ。

瞳孔がオートフォーカスのレンズみたいに「カシューッ」ってしぼんでいったのよ。あれはもう”ヒト”じゃないわ。

「失敬ってどういうことじゃーっ!!」

どれを選んで言ったところで、結局ダメだったのよね。どだい和平交渉は無理な人種だったのよ。

普段自分達の使わない言葉で、きっとテレビドラマでしか聞いたことのない単語を突然浴びせかけられて、結果は怒り逆撫でちゃったようなものよね。

思いっ切り走ったわ。すぐさま近くのデパートに入ったの。人が多いからね。それでエスカレーターを人ゴミかき分けて3階までのぼって、それから階段で2階に降りて男子便所の”大”のほうに隠れたわ。

上手くまけたと思ったけど、念のため一時間も隠れたわ。

アイツらきっと「医者料」とか言いながらね、きっと”医者”と”慰謝”の区別もできてないのは明白なのよね。

で、お金巻き上げるつもりなのはわかってたから、こっちも辛抱強く隠れ続けたわ。そりゃ相手も必死よね。肩がぶつかった瞬間

”お年玉確定”

なんだからさ。タチが悪いったらありゃしない。

で、トイレの洋式便器に腰掛けてね、一人しみじみとさぁ、

「世界中の人々が”温室育ち”になれば、世界はもっと平和になるのになぁ…。」

なーんて真剣に考えさせられたわけなのよね。

(99.3.17)