覆面ライダー

 

「うわぁぁ。不可思議生命体だあっ。逃げろぉ。」

「グォーッ」

「きゃーっ」

「さ、さゆり! さゆりーっ」

ブウオォォォォン キイィーッ

「ああっ、貴方は! 新聞で見ましたよ。不可思議生命体を倒してくれる正義のヒーロー覆面ライダー!!」

「よいしょっと」

「ライダー。む、娘が怪物の手に。は、早く助けてくださいっ」

「まぁまぁ落ち着いて下さいな。事情はよくわかりましたわ。で、今から私は命張って闘ってきますけども、お嬢さんの救出に御主人ナンボ出せます?」

へ?

「いや、ですから へ? じゃなくて、実際私もこの闘いで死ぬかもしれんのですわ。イタイ思いもせなアカンし。で、無事助け出したら正味(※しょうみ)ナンボまで出せます?」

「きっ、君は正義の味方だろう。みんなの笑顔のために闘ってくれるんじゃないのかね!」

「御主人。みんなの笑顔だけじゃあ腹は膨れんのですわ」

「ウダウダ言ってないで早く娘をっ」

「大丈夫ですがな。アイツはエモノを十分間観察した後、頭から食べるんですわ。その間はお嬢さんも家におるより安全ですわ。」

「そんなことわからんじゃないか。早く頼むっ」

「そないに頭下げられても困るんですわ。まぁ聞いてくださいな御主人。私、たまたま古代遺跡のあたりを散歩してましたら偶然このベルト見付けまして、シャレでつけてみたら身体の中に入ってしもうて取れませんがな。それで同じ頃不可思議生命体が人々を襲うようになってきて、闘ってみたら勝てますやん。そうなったら警察も遠慮無しですわ。子供の夜泣きがやっと収まって眠れる思うたら夜中急に呼びだされてとか、自然会社も遅刻や早退や欠勤が多くなってきまして、ある日上司に呼ばれましたがな。こっちもベルトが入ってとか会社に説明したんですがね。上司の言うことがこれまたエエですがな。「君にはもっと相応しい場所があるんじゃないのかね」と、アッサリしたもんですわ。15年も勤めたのに最後は冷たいモンですわ。ちうわけで今私無職になりますねん。家のローンかてあと20年から残ってますし…」

「きっ、君には倫理観というもんがないのかね」

「ありまんがな。この力を使って金庫の壁をブチ破って強盗したりとかしてまへんがな。真っ当に生きてます。でもね、怪人と命懸けで闘ってですよ、家に帰ったらまだ寒いのにストーブに入れる灯油すらも買えませんがな。どないして生活しよう思うたらこないするしかないでしょう。こっちの事情もわかってくれはるでしょ? それに闘うと結構イタイんですわ。腰とか背中とか。でも頑張って倒してきますんで、ぶっちゃけナンボ出します?」

「じ、じゃあ十万出そうじゃないか」

十万?! それ娘さん年頃になったら泣きまっせ。グレるかもしれまへんで。いくらなんでも命が十万っちゅうことはないでしょう。」

「わ、わかった。30万出すから早くっ」

「夏のボーナス一括払いと違うんですから御主人。娘さんは液晶大画面テレビとかと一緒の値打ちでっか? 家の貯蓄で考えるから話が変なことになるんですわ。今頃はホラ、はじめてのナントカやら黄色い看板やら、ほのぼのするやつとか色々便利になってますやん御主人。奥さんと結婚した時も結納で100万くらいは包みはったんでっしゃろ?」

「わ、わかったから。時間がないっ。300万円出すから早く頼む。」

「300万ですね。わかりました。こっちも命懸けて闘いますわ。お支払い方法は一括、またはリボ払いもOKです。分割手数料はジャパネットが負担!」

アンタ何言うとるんですかっ

「じゃあ免許証のコピー取りますんでチョット拝借」

「バイクの後ろの機械はコピー機かいっ!!」

「あとこの誓約書に拇印だけ押しといてくださいな」

「そ、そないなことまでせなアカンのですか?」

「前にね、無事救出してきたのに子供手許に戻ったらガラッと人が変わりよってね「そんな大金出す筋合いなどない 出るとこに出てもエエ」と、こうですわ。私もライダーですし、家庭裁判所は具合悪いですし、ライダーやりはじめの頃は、よく泣き寝入りしてましたわ。ですから私と貴方の契約っちゅうことで。ここに朱肉ありますさかいどうぞ」

「必ず助けてくださいよ」

「当たり前ですがな。あっ、このポケットティッシュで指を拭いといてください。残りはサービスしときますわ」

「……」

「じゃあ私は怪人と揉み合って、どっか遠くの安全な場所で闘ってきますさかい。また後日お伺いしますんで ウォリャーッ」

「…で、ダンナどないでした?」

「それが予想は200万やったんやけど300万出す言うてくれてなぁ。チョットびっくりしたわ。そっちの取り分は100万でエエやろ?」

「充分ですわ。次も頼みますわ」

「貰うたら三日以内にそっちの口座に振り込むさかい。あっ、振り込み手数料はそっち持ってくれはる?」

「当然ですがな。ホンマ頼りはダンナだけですわ。見捨てんといてくださいよ。ダンナと会う前の私いうたら、自分の意思とは関係なくイキナリこの姿になってまうからバイト先にもおれんようになってきて、引きこもってましたんや。それで人生ヤケになって公園で暴れてたらダンナからのお誘いでしょ? あの時ダンナに会うてなかったら今頃どうなってたか…」

「こっちも自分との出会いは渡りに船やったがな。今まで会った奴らは交渉してみても「俺が神だ」とか「世界を支配する」みたいな訳わからん奴ばっかりで、まぁそういうトチ狂った奴らは全員俺のドリルスパークキックでブチ殺してきたけどな。ワシそういうとこ正義感強いねん(笑)」

「ダンナのそういうところにこっちも感動してしまうんですわ。それにしても見事ですわ。子供を頭から食べるとか、観察してから食べるとか。十分間っちゅうのが絶妙ですわ。最初台本聞いた時はビックリしましたわ」

「親に考える余地を与えるんがポイントや」

「子供なんかよう食べれませんわ。そぼろ御飯とかが好物ですし(笑)それでもダンナ、守ってくださいよ。他の奴らは強くなってますけど私の場合この姿と、ジャンプ力と糸はくこと以外人間と一緒ですから警官にライフルでも打たれたら一発で死んでまいますわ」

「わかってるがな。揉み合いながら背中で全部弾受けたるさかい。くれぐれも自分を大事にしてや」

「ホンマ収入源はダンナしかないんですわ。これからも末長うたのんますわ」

「こっちかて家のローンあと20年以上あるさかいな。持ちつ持たれつやがな」

「羨ましいなぁ。豪邸建てはって」

「何をおっしゃいますやら。ささやかなウサギ小屋ですわ。今は金利だけ払うとるようなモンですわ」

ウーウー

「アッ、五条刑事が来たわ。次の予定は携帯に連絡するさかい取りあえず逃げてくれ。またエエ仕事してや」

「電話待ってますわ」

「おおーい。ライダーッ。大丈夫かぁーっ」

(2004.2.19)

2004.11追記「月刊コミックビーム」にて友人 金平守人がマンガ化