エッセンシャルワガツマ

〜雑誌連載終了 それからのこととか…〜
第一章 新たなる始まり 第二章 呉エイジ 東京の大地に立つ
第三章 神々の宴 第四章 まつりのあと…
第五章 夕暮れの東京タワー 第六章 COMIC TOUR NEW!


・第一章「新たなる始まり」

何から書き始めていいのか判らなくなるくらいに、時は流れてしまっていた。

2006年、連載を終えた(嫁との争いに負けて?)私は、普通のサラリーマンとして健全に生き、 新年のマックピープルへの投稿作が一本と、親友であり漫画家である金平に提供した「スーパーさん」 という漫画の原作が一本だけという非常に寂しい一年となった。

その他には、某県よりオファーがあり、視覚障害の方のために「ワガツマ」を朗読しテープに収め図書館 に収めたい。という光栄な話があり、喜んで承諾した。

別に「果報は寝て待て」を実践していたわけではない。

正直、私は雑誌連載を続けたかった。最終回の前後は「離婚」か「連載継続」の二者択一という ギリギリの夫婦間であり、連載終了後は自分のホームページを覗くことさえ苦痛な、 まさしく失意の日々を過ごしてきたのである。

今回この大事なホームページの更新に時間を割くことが出来なかった理由と、 何をしていたのか、これから何が始まるのか、を拙い筆でポツポツと書き綴っていこうと思う。

最近、嫁の機嫌はすこぶる良い。私が自分を殺し、一年以上もパソコンにのめり込まず創作人を辞め、真っ当な家庭人として慎ましく暮らしてきたからだ。

一日の制限時間はたったの一時間。最長で一時間半しか愛機マックの前に座る時間は 嫁から与えられてはいない。

し、しどすぎるっ

その貴重な時間を一年間、これからお話しする作業に費やしてきたのだ。 今、やっと一段落ついて、空白の時間を振り返っている。

「早く更新してください」というメールを頂いて

「ひぃーっ。す、すいませんっ」と、恐れおののきながらモニタの前でのけぞる日々もこれからは少し減るであろう。

 チーン、チーン オムライス トゥゲザー 

今、私の頭の中では、ジョンレノンの「スターティング・オーヴァー」のイントロが流れ、 武者震いをしている。

始まりだ。新たなるスタートだ。 2007年1月31日の夜。私は東京行きの夜行バスに乗るため、嫁の運転する車の中で、 心持ち小刻みに震えつつもボストンバッグを抱えながら姫路駅へ向かっていた。

「なんで一人で東京やねん。私らもディズニーランド行きたいっちゅうねん」

嫁のご機嫌は斜めを通り越して既に垂直となっており、私は断崖絶壁に立たされた子羊の如くプルプルと震えてみることしか為す術は無かった。

「だから前から言うてるやないか。親友の金平がアパート引っ越すんや。あいつそんなに売れてないやん。 もっと家賃の安いとこへ変わるんや。引越し代もあんまりないねん。 っちゅうか、そもそも貯金っちゅうモンがないんや。親友である俺が片付けを手伝わなアカンやろう」

私は必死に弁明をする。この日のために今まで「おりこうさん」を演じてきたのだ。つまらぬ横槍で邪魔をされてなるもんですかっ。

「なんで引っ越しくらいで東京行きやねん」

嫁はブツブツと私の鼓膜に充分な音量で届く独り言を繰り返している。

車は駅前に無事到着し、最後までブツブツ言いながら嫁は私を車から叩き降ろした。

「土産忘れたら家には入れへんからな。わかっとるな

お前はヤクザかっ。という心の声を胸の奥底に圧縮格納し、振り向くことなく神姫バスの夜行バス乗り場へと足を向ける。

出発は21時30分。明日の朝6時過ぎには待望の東京だ。 少し早めにバスに乗り込み荷物を降ろす。

斜め後ろの席では、メタボリックおじさんがスーツをハンガーに掛け、パジャマに着替えている最中であった。

「車の中で寝るのだから、パジャマっつーのもアリか…」

チラチラと気にしながら後ろを振り向いたその瞬間、おやじのダブダブのブリーフの隙間から、 お食事中の読者の皆様には決して報告できないアレが大胆に「こんばんは」をしていたのである。

今、オメェ、見たか?

という無言の問い掛けをしてくる濁った瞳。

内心「別に見たところで、こっちが損しているだけの話やんけ。なに被害者面しとんねん」

というアイコンタクトメッセージを送り返すも、両者こう着状態。

あぁ、この気まずさは昔にもあったなぁ…。子供の頃、長屋の隣に住んでいたオバちゃん。可愛がってもらっていたのだが、引っ越してしまった。

そのオバちゃんが久しぶりに会いにやってくる。 それも俺に食べさせるべく腕を振るった料理持参で。

「さっ、たくさん食べてね。鍋一杯に作ってきたから」

オバちゃんはコタツ机でスプーンを持つ私の対角に座り、頬杖をついて微笑んでいる。

それは激マズの冷たいカボチャスープであった。 一口食べてから続いて手が伸びない。

「遠慮しないで」というオバちゃんのアイコンタクト。

これは無理ですっ」という私の無言の返信。

両者こう着状態のまま、あの日はどのように収拾したのだろうか…。気絶でもしたか…。

大人になった私は、この場を一オクターブ高い咳払いで逃れ、座席に置いてあった毛布を 肩まで掛けながら白々しく景色を眺めだした。

この後オヤジは、消灯後おもいのたけ「いびき」を高らかに歌い上げ、 私はもう少しで濡れタオルをソッとオヤジの顔に置きたくなる衝動と戦い続けることになるのだった。

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