ジ・エッセンシャル・ワガツマ

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・第三章「神々の宴」 電車に乗って池袋へと向かう。金平と二人で、本屋やゲーム屋をブラつき時間を潰しながら会場へ向かう。 金平「いよいよやなぁ…」 呉「なんか緊張してきたわ」 ホテルの入り口付近は、既に行列が出来ていた。
招かれているのは出版関係者、漫画家、原作者などである。一般は立ち入り禁止の催しなのだ。 金平は雑誌連載をもっているから違和感はないが、私は雑誌連載を既に終了しており、日頃は上司に怒鳴りつけられ「ヒイーッ」と叫んでいる普通のオヤジだ。 こんな場所に来て本当にいいのだろうか…。 受付で名を名乗り、名札を着けて入場する。すると入り口付近でいきなり後ろから声をかけられた。 「おぉ〜。金平に呉くん」 「ああっ。森さん」 そこには漫画家であり学生時代の先輩であるモリ 淳史さんが立っていた。 森「いや〜、呉くんとは5年振りくらい?(笑)」 呉「お久しぶりです。な、なんで森さんがここに?」 森「いやぁ、今後のラインナップ候補に、もしかしたらってカンジで。まぁ顔見せみたいなカンジかな」
森「それじゃあ、編集さんとかに名刺配ってまわるから、後ほど」 簡単な挨拶だけ済ますと、森さんは人込みのなかに消えていった。それにしても、だ。改めて考えてみれば、ここに居るのは一種「特別」な存在であると言える。 それなのにウチの嫁ときたらどうだ。ここに私が来ている大事さを理解してくれるのだろうか。 嫁「家の手伝いもできん夫なんか、いらん!」 私が個人活動を伸ばし、家庭を離れれば離れる程、嫁の私への評価は急落するのである。 『会場にお集まりの皆さま〜』 突如、天井のスピーカーからアナウンスが始まった。
呉「あっ、あっ、あっっ、」 金平「おっ、落ち着け、どないしたんや」 呉「赤川次郎が…」 10メートル先に、赤川次郎先生が壇上に立ち、マイクを持って会の始まりの挨拶をしている。セーラー服と機関銃だ。三毛猫ホームズだ。 呉「こうなるまでは、俺もただの東京観光気分だったが、なんかとんでもないことが身の回りで起こり始めている」 金平「すげー。本物の赤川次郎先生だぁ〜」 フリードリンクであったので、チレイなウェイトレスさんから飲めもしないワインを受け取ると、気持ちを落ち着かせる為に一気に飲み干す。 そうして、会場に集まった人たちの顔をぼんやり眺めていると、そこに…。 呉「とっ、とっ、とっ、トカチェフ!」 金平「おっ、落ち着け、どないしたんや」 呉「とっ、富野由悠季がっ…」 二人で絶句してしまった。2メートル先には「ガンダムの生みの親」である富野由悠季先生が、普通に立ち普通にお酒を飲んでいたからだ。 呉「な、なんか姫路のみゆき通りの模型のつばめ屋で、ガンプラのゾックを買いに行って、オヤジに「ここにあるのは予約分だから」って素っ気無く返事されて、しばらくオマエと二人でオヤジを睨み倒したよなぁ」 金平「そ、そんな思い出古すぎて、あったんだか なかったんだか(笑)」 あの奥深い世界観とストーリー性を持つガンダムを前にして、出てくるのがガンプラのゾックの話というのが我々の底の浅さを物語っているではないか。人間、慌てふためいて混乱すると、とんでもないことを口走る。ということだ。 呉「いやいやいや。何? 予想以上のこの胸の高鳴り」 金平「俺も今、モーレツに感動している。俺なんかセイラさんとフラウボゥとミライさんの入浴シーンを、ビデオデッキが磨り減るくらい観た」 俺よりも「チンカス野郎」が真横に立っていた。 金平「俺達スゲェ、って単純に思えんよなぁ。なんか光栄っていうか、有り難すぎるっていうか」 呉「そうやなぁ、小学校の「いじめられっ子」だったワシらに、この光景を見せたらどう思うやろぅ…。憧れのガンダムの作者が目の前やぞ」 金平「授業中に紙屑ボールを背中に投げられてたオマエと一緒にすな」 呉「オマエだって、女子の前で短パン後ろからズラされて、ブリーフモロ見えになってたやないか(笑)」 懐かしい話にお互い頬が緩む。 金平「なぁ、人生ってプラマイゼロのような気がせぇへんか?」 呉「そうやなぁ、前半で辛いことがあったとしても、後半こうやって人生帳尻合わせてくれるのかもなぁ」 金平「それ思うたら、若い子の自殺ってニュース多いよなぁ」 呉「絶対に辛かった分、利子がついて帰ってくると俺は信じてる」 金平「オマエ、ホームページ持ってるやろ。メッセージ込めて発信しろ」 呉「書く。書く。このまま書く。いじめられても死んだらアカンよなぁ」 小学校からのアイツとの思い出がゆっくりと甦る。 呉「少し気分も落ち着いた。向こうのカウンターで食べ物取ってきてやるから。オマエここで待ってろ」 金平「そうか。悪いなぁ。じゃあ頼むわ」 私は一流ホテルの高級料理を求め、行列の中に飛び込んだ。きっと嫁の手料理の「10倍界王拳」級にウマいはずだ。一生で二度と口に入らぬかもしれぬ。 〜20分後〜 呉「あーっ。はっはっはっはっはっ」(談笑) ぱしこーん! 軽い衝撃が私の後頭部を走る。 呉「な、なんや。金平。いきなり後頭部平手打ちはないやろう」 金平「オマエ、ワシあっちでずーっと一人で待ってたのに、見に来たらこれや。どういうことや」 金平は私の話をしていた相手に「チョットすいません」と断りを入れると、袖を引っ張って会場の端にまで移動した。
呉「行列に並んでて、話しかけたら漫画家さんやないか。それで「創作の苦しみ」や「締め切り前の精神のバランスの取り方」とか熱い話になってしもうたんや。すべて創作のためや!」 金平「なにが精神のバランスや。オマエの精神の方を疑うわ。こんなとこまで来て。周りに腐るほど男性の漫画家がおるやないか。なんであえて女性やねん。オマエ、絶対別のポイントに吸引されていったとしか思えん」 呉「…(滝汗)」 金平「なんでオマエはそう簡単に綺麗な女性と屈託なく話ができるんや」 怒りながら金平の方向が微妙に変化していることに気がついた。怒られている構図を逆転するのは今だ。死中に活を求めるのだ。 呉「じゃあオマエに聞くがなぁ、ぶっちゃけ現時点オマエには彼女がおるんか? おらんのか?」 一瞬の静寂…。賑やかなパーティー会場の中で固まったまま睨みあう二人。 金平「…。オマエ改めてそんな事聞いて楽しいんか!」 わかりやすい奴(心で爆笑) わかるぞ。手に取るようにわかるぞ。25年の付き合いだものな。「そこの話題には触れてくれるな」というオマエの深層心理まで丸見えじゃ。 呉「俺はオマエの事を思って行動してるんや。俺たちもうすぐ40やぞ。それがオマエ、女性と話するとき明後日の方向向いて喋ったり、モジモジしたまま沈黙したりで、親友として正直オマエの未来に不安を感じとる」 金平「…」 呉「だから俺はだなぁ、女性の漫画家さんに話しかけて、オマエに会わせようと努力してたんや。相手が漫画家ならいくらオマエでも話題あるやろ。一番にはオマエの事を想ってや」 あの世に閻魔大王が存在するのであれば、私の舌は確実に根元から引っこ抜かれるであろう。私の本心は、放送禁止級の嫁とは天と地の開きのある、若くて綺麗な女性漫画家さんを前にワクワクウヒャウヒャしながら喋りたかっただけなのである。 金平「そ、そうやったんか。じゃあ会わせてくれるんやな。その間、オマエは横に居てくれるんやな」 呉「当たり前や。もう中高生やないんや。ワシに付いてこい」 そうして会場の真ん中に二人で移動するも、話をするのは私だけであり、やっぱり金平はフルーツやキャビアの乗ったリッツを私の横で頬張りながら、明後日の方向を向いて「一人リッツ大パーティー」を開催するだけなのであった。 |