
「血祭りの秋祭り」
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〜第一幕「夜店にて」〜 残業でヘトヘトになっている間に、世間ではすっかり秋祭りムードなのであった。 「アンタ今すぐマックの電源切りいや。なんぼ掃除しても、なんぼ掃除しても、アンタが部屋を散らかしくさるから、子供ら連れて夜店にでも行っといてくれ」 皆さん。信じてもらえぬかもしれぬが、これが我が家での日常会話なのである。普通の用件なのに、この私への激しい精神ダメージは一体なんなのだ。 嫁は無造作に三千円だけ渡すと、凄まじい勢いで掃除機を引っ張り出し「モタモタしとったら吸い込んでまうど」とでも言いたげな目で私を見つめ続けるのであった。 まぁよい。取りあえず私には三千円もの現ナマが与えられたのだ。子供たちには夜店のムードだけ味合わせておいて、この軍資金はそのままipod購入への布石として温存しておかねばならぬ。私は子供らを明るい声で招集すると、夕暮れの中、嫁の1BOXカーで駅前へと繰り出すのであった。 陽も暮れた駅前大通りの両脇にビッシリと並ぶ夜店。子供たちは大ハシャギで街を歩く。 「今日は見るだけのお祭りですからね」 気がつくと次男ちゃんの姿が見えない。慌てて振り返ると次男ちゃんはお面屋さんの前で前屈みになりながらフリーズしていた。 「こっ、これ。次男ちゃん。今日は見るだけのお祭りだからね。先に行こう」 「ぼ、僕、なんとかレンジャーのお面が欲しいなぁ。ママがパパにお金を渡してあるから、欲しい物はパパに言いなさいって言ってたよ」 よ、嫁の奴、余計な事を教えおって。それでは子供たちにたかられまくってしまうではないか。店に視線を移すと、母親が子供にお面を買い与えているところであった。差し出された千円のお釣りは、屋台の兄ちゃんの「ありがとう」だけであった。 お面千円ジャスト。三人で三千円。ジ・エンドやんけ! あの薄いお面が千円もするのかっ。次男ちゃんはどうしてもなんとかレンジャーのお面が欲しいらしく、泣きそうな顔のまま一歩も動こうとはしない。 「だってママが買ってもいいよって言ってたもん」 華やかな大通りの真ん中で、お面が一個千円もするという驚愕の真実を知らされて一人狼狽する私は、なんとかこの危機を脱出せねば、根こそぎ持っていかれる事態を回避せねばと、一休さんの木魚の音をBGMにしながら脳細胞をフル回転させた。 「わ、わかった。お父さんが描いたる。本物以上に描いたる」 泣きじゃくる子供と、後から冷静に考えれば、街のド真ん中でとんでもない説得をしている私に、通行人の視線が集まっていることに気がついたのは数秒後であった。 〜第二幕「罵詈雑言」〜 「アンタはこの前の日曜日が休日出勤のせいで町の祭りに出られんかったけどなぁ、小学生の父親はお神輿と一緒にフンドシ一丁で町内を歩かなアカンねん。で、私その様子を見ててビックリしたっちゅうか、アンタが休日出勤でホンマよかったっちゅうか、この辺に住んでるパパさん連中の全員が全員、足キレイがな。毛なんてないがな。お尻もツルツルで見とれてしもうたがな。アンタみたいに足全体が剛毛で、見苦しくて小汚い尻のお父さんなんて一人もおらへんがな。何言うてるねん。祭りの為にいちいち剃るってか? そんな訳ないがな。あれは絶対に剃ってないで、天然で綺麗なんやで。アンタ、あの輪の中に出て行かれへんで。アンタだけ放送禁止やで。アンタ体操の時間とかアリンコをやられたクチやろ。ホレ、手のひらで足の毛をグリグリして毛のボールを作るアレや。なんでそんなに剛毛やねん、ってホンマこの前が休日出勤でつくづくヨカッタっちゅう話や」 〜カーテンコール〜 「いやぁ、お祭りムードで父さんパチンコに行ってなぁ、久しぶりに勝ってしもうたがな。そうなったらエイジにもお土産っちゅうことで煙草ワンカートン持ってきてやったぞ。ホレ」 突然の親父の県住への来訪。それにしたって秋祭りとパチンコと、一体どのような関係があるのだ親父よ。という真っ当なツッコミは咽の奥に引っ込めて、私は有り難く親父からの戦利品を頂くことにした。 「もう父さんパチンコに夢中で、トイレに入るのも忘れてしもうて限界や。チョット便所借りるで」 親父と入れ替わりで嫁がこっちにやってくる。 「親父がパチンコで勝ったらしいわ。土産のワンカートン。ホンマ有り難いなぁ。毎日の煙草代って大きいもんなぁ。これで少ない小遣いが浮くなぁ」 「アンタ、ホンマによかったなぁ。毎日自動販売機で買わんでもエエがな。余計にスパスパ吸ったらアカンで。じゃあ今月の小遣いから三千円引いとくな」 は?! 今の私の目は確実にテンになっているハズであった。 「な、なんでそうなるねん。これは親父から貰っただけやんけ。なんでワシの小遣いにダイレクトで影響するねん。これは小遣いと分離して考えてくれや」 「なんでやねん。毎日アンタは家計から煙草代を持っていくやないの。毎日一箱で抑えれば10日間持つがな。厳しい家計に少しは貢献しいや。それにアンタはそれで損はしてないがな」 「してるがな。三千円損してるがな」 「な、なんや、なんや、大きい声出してから」 親父がサッパリした顔で便所から出てくる。 「親父、こんな土産俺だけにコッソリ渡してくれや。今月の小遣いから三千円引かれてしもうたがな」 「ムッキー、アンタよくもお義父さんの前で言うてくれたな。そんな家庭の事情を口にするなんてアンタは世帯主の自覚があるんか」 「チ、チョット聞き捨てならんぞエイジ。せっかく持って来てやったのに、その言い草はなんや。どないな言い草じゃ。それはこの口が言うとるんか」 子供じゃあるまいし、ほっぺたをつねるジェスチャーはいい加減やめてくれ。親父よ。気がつけば集中砲火を浴びているのは私だけであった。二人とも目を真っ赤にさせながら私に怒っている。私は言い返すチャンスを逃したまま、一方的に言われるだけであった。 そんなに私は悪いのか。こういう場合は言うたモン勝ちなのか。やっぱりこの世は弱肉強食なのか。 早口でまくしたてられる二人の言葉は、投げやりになってしまった私の耳ではいつしか判別できなくなっていた。 県住の窓に目をやると、裏山は少しずつ化粧を始めていた。秋はもう、すぐそこまで来ていた。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「年中せつないのですが秋は一層せつないです」
と、一言いっておきたい。
完
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