「東京拷問紀行



〜イントロダクション〜

アタシ頑張ったで。何がって? 旅行やがな。家族揃って初のディズニーランド旅行のことやないの。貯めたがな。コツコツと。旅行会社に先週20万円振り込んできたがな。根性の五カ年計画や

なんやねん、その不服そうな微妙な表情は。まさかその積み立てがあったら最新のマックが買えるのに、みたいなこと考えてるんと違うやろうなぁ。三人も子供作っといて、まさかなぁ。それでアンタ。旅行中は仲良く行こ。せっかく大金はたいての旅行や。ケンカしたらツマランやないの。仲良し夫婦で最後まで行こ。東京モンに見せつけたろ。なっ。宣誓! 旅行中は絶対にケンカいたしません!!

〜新幹線ホームにて〜

何グズグズしとるねん。早く歩かな新幹線行ってしまうがな。そんなカバン三つくらい背負っただけで死にそうな目してからに。なにもかもがアンタは大袈裟なんや。日頃からマックばっかり触ってるから体力ないんじゃ。腹ゆする前に足動かしいや。何? 昨日残業で俺だけ睡眠時間が五時間? 知らんがなそんなもん。こんな時こそ気合い入れなアカンやろ。それで何やっとんねん。ビデオカメラで何映してるねん。感動のスタート映像? 誰も駅のホームでビデオ回してないがな。こっ恥ずかしいこと止めて、さっさと来い

〜ディズニーランド入場〜

来たーっ。ミッキーが来たーっ。行けーっ。子供ら何しとんねん。何固まってるねん。飛びかかってこんかい。コギャル押しのけて背中にブラ下がってこんかい。なんのための20万や。早よせなミッキー行ってまう。アンタも何ニヤけて感動しとんねん。細目で首肯いてる場合と違うやろ。なんのためのデジカメや。さっさとカバンから出さんかい。えっ? どこに入れたか知らんか? しばかれたいんか。とっととデジカメ出さんかい。子供らも飛びかかってこんかい。待て。ミッキー待てーっ。ちょっと待ったらんかい。ナンボ払った思うとるんじゃ。

〜乗り物予約券発券所〜

トロトロ歩くなーっ。行けーっ。アンタ先行ってプーさんの乗り物券並んでこんかい。死ぬ気で走れ。一年分の走りをここで見せぇな。後から携帯で連絡するから絶対に取ってこい。ガイドブックに載ってたんや。これが最高ってな。このための五カ年計画や。水の泡にしたらアンタわかってるやろうなぁ。……って、なんやねん。これは? なんで一枚やねん。えっ? 一人のパスポートで予約は一枚しか取れん? それでノコノコと退場してきたんかい。どないするつもりなんじゃ。一人でプーさんに乗る気かい。なんのための携帯や。そこで気がついたら私ら呼ばんかい。後ろで何人待とうが粘らんかい。その頭は飾りか。取り返しつかんやないか。予約券の機械の周り、グルグルで順番待っとるやんけ。ホンマどいつもこいつも同じモン乗りたがってからに。もうすべてが手遅れやんけ。アンタどないな落とし前つける気じゃ。

〜咽が渇きました〜

迂闊やったわ。ジュースの自動販売機、一台もないやんけ。まだ50人は並んでるやないの。何時間かかるねん。たかがオレンジジュース一杯飲むのに。「ウチらジュースだけですから変わってくれますか」って言いながら進んでみよか。冗談やがな。それもこれも全てアンタのせいや。一家の大黒柱やのに、行きの新幹線で用意したガイドブックに目も通さんと寝てるからこないなことになるんじゃ。水筒を用意すれば済んだ話やないの。こうしてる間に乗り物一つ乗れるんと違うか? なんの計画性もないからじゃ。見てみぃ。他の夫婦を。ニコニコしながら無駄が無さそうに移動してるやんけ。アレはダンナが完璧にルート入っとんねん。家族をエスコートしとるねん。情けないわ。ホンマ東京まで来て芯から情けないわ。五年かけた貯金も浮かばれませんわ。

〜華やかなパレードタイム〜

よっしゃ、あと二時間三十分でハロウィンパレードやな。これは見逃せへんで。アンタ、準備や。何キョトンとしとるねん。この一等地に座って順番とっとけ。一人で? 当たり前のこといちいち聞くな。絶対に動いたらアカン。場所取られてまうやんけ。今のうちにトイレ済ませとけ。私らは子供らがお腹空かしてるから向こうのレストラン入ってくるわ。アタシと違うがな。全部子供のためやないか。なんやねん。その目つきは。もっぺんその目してみぃ!

〜翌朝ホテルの窓から〜

雨や。最悪や。なんで二日目が雨やねん。なんでここまで来て雨やねん。アンタ違うんか。雨男は。そんな臭いがするわ。アンタの日頃の行いがすべて悪いんじゃ。マックばっかり向かって家族サービスを自主的にせんから、ここ一番で神様はこんな仕打ちをしてくるんじゃ。反省しとるんかい。雨でも行くで。ホテルの下の売店でさっさと傘買ってこんかい。身から出たサビじゃ。

〜フィニッシュ〜

粘りすぎたわ。子供らレストランで寝てしもうた。どうやってホテルまで帰ろう。こらーっ。起きろーっ。オオカミさんと魔女が捕まえにくるぞーっ。アカンわ。疲れ切って完全に寝てしもうたわ。アンタ、子供二人だっこしてカバンも持って。私は一人オンブするから。何ぃっ? 無理ぃ? どないな言い草じゃ。それなら一人子供をここに置いていく気か。何考えとるんじゃ。ディズニーで離婚したいんかい。ミッキーに見届けてもらうんかい。災害が起きたらアンタは重いっちゅう理由だけで家族を見捨てていくんやな。そんなことが平気でできる男なんやな。ナメたこと言うとる前に帰る準備せんかい。それしか方法はないやろう。そんなオーバーアクションで体力使うな。無駄口叩く前に荷物纏めいや。

〜会社の駐車場にて〜

「それでな。行く前に絶対にケンカせんとこなって決めたのに嫁がな」

夜の駐車場はさすがに冷え込んでいた。横には後輩が付き添って話を聞いてくれている。迷惑そうな顔に見えるのは気のせいか? この旅行で被害妄想癖でもついたか。

「なんでもかんでも俺のせいなんや。失敗したら全部オレのせいになるんや。周りがファンタジーな分、落差がな…」

涙がまるで滝のように流れ落ちる。誰かに聞いて欲しかった。この辛く険しい二泊三日の実情を。

「しまいには雨まで俺のせいや。そんなもん知らんがな」

「す、すんません。呉さん。嫁がコロッケ揚げてるから早く帰ってきてって、さっきメールあったんですわ。また今度ゆっくり話聞きますんでお先に失礼しますわ」

後輩は逃げるようにスポーツカーで立ち去ってしまった。一人ポツンと残された私は寂しさが倍増である。気がつくと駐車場のフェンスの上からカラスがジッと私を見ている。わ、私から死のオーラが出ているとでもいうのか。死なんぞ。まだ死なんぞ。

私は涙を振り払い、鬼嫁の待つ県住へと車を走らせるのであった。

 


これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。

たまに行く家族旅行では大ゲンカになりやすい

と、一言いっておきたい。