
「小さな池」
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平凡な日常こそ「幸せ」であるとは誰の言葉であったか。 代わり映えのない日々の暮らしの中では、チョットした事でも心の底から不覚にも感激や感動してしまうことがある。 毎日が「死闘」ともいえる我が家ならば尚更のことだ。今回はちょっと趣向を変えて「夫婦とは一体なんなのか」ということを改めて皆さんに問い掛けてみたい。 マックとの衝撃の出会いから早7年…。結婚の一年前の話である。結婚話が纏まっていくのと同時進行で私のマック熱は高まっていった。 であるからして結婚の後で私は自分のマックを買ったのだ。披露宴でスピーチしてくれた友人や、カラオケを唄ってくれた友人達が「二人のために」と持ってきてくれた祝い金を購入資金に充て(時効)嫁さんに頼み込んで購入に踏み切ったのである。最初の愛機LC630(初代キングジョー)は婿入り道具ではなかったのだ。 新婚当初、まだ家財道具も少なかった頃の県住の居間にデデーンと置かれた一台のマッキントッシュ。 嫁「買ったのはエエけど、一体これで何ができるん?」 嫁のこの質問は、まさに私の急所を突き刺すモノであった。周辺機器もなければソフトもない。シンプルテキストで日記らしきものをつけだしたのだが、それも二日坊主。考えれば日記に25万円の投資というのはあまりにも高すぎる。 呉「そ、そうだ。プリンターとスキャナーを買って、親戚に結婚しましたハガキを出そう。」 セットで本体並の価格はしたであろう当時の周辺機器(メモリも高かった)。モノ凄い後ろめたさを感じながらも「もう後戻りは出来ない」状況に、悪徳商法にひっかかったような気分を必死に打ち消しながら、またその度に嫁に頼み込みながら、私のマック環境は整備されていったのである。 ※ 休日の朝、ほとんど昼前に目が覚めた。家の中は怖いくらいにヒッソリとして全く人の気配がない。ノソノソと起きだして台所に行くと冷蔵庫に貼り付けてある嫁のメッセージ。 「子供はおばあちゃんに預けています。買い物に行ってきますのでお好きにどうぞ。」 お好きにどうぞ。って朝ご飯も何もないやん。独り心の中でボヤきながらまずトイレに向かう。そしてトイレの中でタバコを一服。起きてすぐの快便。気持ちの良い一日の始まりだ。 今の私は悲しい程自由であった。 自分の吐き出す煙に揺られながらボンヤリと考える。 呉「あぁ、結婚も5年を過ぎると愛も冷める。か…。朝ご飯の用意もナッシング。コーヒーもセルフサービス。まぁ考えてみれば、あんな女に俺がしたのだが…。」 そう。マック、特にインターネットを始めてからの私は「のめり込む」という表現がピッタリであった。電話線で自分と世界が繋がるという素晴らしい媒体に完全に魅せられてしまったのだ。 毎晩遅くまで続くネットサーフィンは確実に夫婦の会話を削っていった。 呉「朝ご飯もナシってのも仕方のない話…。か…。」 グガゴーとトイレの水が勢いよく流れる。さて休日だ。有意義に過ごさねばならぬ。時は金なりだ。とりあえずマックを立ち上げてメールチェックでもするか。 私はイスに深く腰掛けるとマックの起動ボタンを押した。有意義に…、有意義に…。 待てよ…。嫁は一体休日をどのように使っているのだ? 本当に買い物なのか? そもそも嫁は何時から外出しているのだ? タイミングよく私のメモリーから昨夜、寝る前の嫁の一言が思い出される。 嫁「アンタはマックに浮気しとるようなもんや…。」 あの一言はもしや私に対する「警告」であったのか? 確かに私はマックにのめり込んでいるし、巨乳グラビアアイドルにも目を奪われ勝ちだ。しかし「浮気」とは言い過ぎであろう。だからといって自分がしてもいいなどとは以ての外。 私は急激に心の内から沸き上がる怒りに髪の毛を逆立てながら、部屋のタンスを物色し始めた。何か手がかりはないか? 何か証拠が…衝撃の携帯電話番号のメモとか。 手荒くタンスの中身をかき混ぜると、そこには無数の封筒が入れられていた。茶色いその封筒には一つずつ「ガソリン代」「散髪代」「ガス、電気代」と嫁の走り書きでメモされ、中身にはキッチリとその金額が納められていた。 B型の私には考えられない几帳面さだ。 この中に「秘密の交際費用の封筒があるかもしれない…。」 更に鼻息を荒くしながらも丹念に封筒をチェックしていく。そして一番下にまるで隠すようにしてあった一通の封筒。 その封筒を手にした途端、私は「嫁が浮気をしているのでは」と疑った自分の馬鹿さ加減に呆れ、また完全に言葉を失ってしまったのであった。 その封筒には嫁がボールペンで簡単に、こう走り書きしていたのである。 「HP代」 思い返せば去年の10月、私と嫁はプロバイダーに支払う年間使用料の件でおおいにモメた。あの時は相当に深刻で、嫁は私が毎晩遅くまでホームページの更新に打ち込む姿を涙ながらになじり、これ以上ホームページばっかりやると実家に帰る。まで話が発展してしまったのだ。 それでも私は譲らず「ホームページは男のロマンだ」と嫁に熱意を持って説得にあたったのだが、完全に頭に血がのぼっていた嫁はハサミを持ち出し、モデムケーブルを切る寸前までの大ゲンカになったのだった。 言葉を失ったままゆっくりと封筒の中身を確認する。中身は千円札が8枚入っていた。今が6月、毎月千円ずつ貯金されていたことになる。 私は急に罪悪感に囚われてしまった。嫁に内緒で続けているマックピープルの連載、男のロマンを追い求めて雑誌掲載にまで漕ぎ着けた。ここまで来るにはイロイロあった。嫁にほっぺたをはり倒されたり、悲惨な弁当を持っていかされたりしたこともあった。 嫁は私の「マック道楽」を心の底から憎悪しているハズであった。 それでも嫁は私の「男のロマン」をしっかりと汲み取り、ダンナの目の届かない所で来るべき準備をする。二度とあのような離婚寸前の大ゲンカにならないように…。 あぁ、嫁が浮気をしているなどと一瞬でも疑ってしまった。嫁は日頃憎まれ口は叩くけども、まさか陰でこんな事をしていたとは…。 私の目は涙でいっぱいになった。そのままではこぼれ落ちそうなので上を向いた。それでも嫁の優しさに涙が溢れて止まらない。年齢とともに私は涙もろくなっている。私の両目はいつの間にか「小さな池」になっていた。 これが「夫婦」というものなのかもしれない…。果てしない死闘を繰り返しながらも、肝心の所ではキチッと何かが守られている。嫁もホームページに打ち込む私の背中に、怒りながらも何かを感じ取ったのかもしれない。 気がつけば私の手の中の「HP代」封筒はクシャクシャになってしまっていた。 呉「タンス漁ったのがバレても仕方がないか…。」 そこでTVドラマの如く県住のブ厚いドアの向こう側から、カサカサとおそらく「ヤマダストアー」のナイロン袋であろう音とともに嫁が帰ってきた。時計を見ると昼ご飯を作る時間である。 嫁は玄関先で私の涙目である姿を見てキョトンとしている。 嫁「そんな所ツッ立って何しとん?」 呉「もういい。何も言わなくてもいい…。」 寝起きからいろいろありすぎて何から説明していいのかわからない。 嫁「ああ〜っ、勝手に私のタンス開けたな!」 嫁は買い物袋を両手に持ったまま私に突っかかってきた。 呉「勝手にタンスを開けたことは誤る。スマン。何言っていいかわかんないけど、言わせてくれ、ありがとう。」 嫁の頭の上には無数の?が飛んでいたに違いない。 呉「それにしてもオマエも泣かす奴やなぁ。俺に黙ってホームページ代を貯めてくれとるなんて…。」 私はクシャクシャになったその封筒を嫁の目の前に差し出した。 一瞬の沈黙…。 アレ? 嫁の顔に笑顔が浮かばない…。 呉「オ、オマエ、最後まで秘密にしておきたかったんか?」 嫁「なんで私がアンタの為にコツコツ貯めなアカンねん。そもそもホームページ代って何やねん。誰がホームページ代やねん。それはアンタのマック道楽で起きる偏頭痛を治しに行く為のホスピタル代じゃ。」(超怒号) 今度は逆に言葉を失いつつ立ち尽くしてしまう私…。 今まで両目から滝のように流れていた星飛雄馬状態の私の涙。 その質はいつの間にか変わってしまっていた。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「夫婦知らぬままが仏」
と、一言いっておきたい。
完