「ぶっちゃけた話…」


 

 小学生の頃、夏休みなどは45日間を有意義に乗り切るプランもネタも中盤には底を尽き、時間を持て余しすぎて誰かに時間を売りつけたいくらいであったのだが、三十路を迎えた今、一番欲しいものはその「時間」であり、一日の大半を睡眠と夏休み子供劇場ウォッチに費やしていた幼少の頃の私から格安で買い戻したい気分なのである。

子供の頃ならともかく、大人になると家族でもなかなか時間が合わないもので、全員が揃うのも正月と盆だけというのも、あながち大げさな話ではない。

その日親父は前もってウチの嫁に私の休みを聞いていたのであろうか、休日の夕方、タイミングよく

「みんなで銭湯にでも行かんか?」

という誘いの電話がかかってきた。

本音をいえば連日残業続きだった私は、休みの夜こそ愛機マックの前に座り、溜まりっぱなしの未読メールチェックとホームページの更新を頑張ろうと密かに計画していたのであるが、たいてい自分の大切な予定と「たまにはさぁ…」という人の誘いは重なるもので、思い返せば家族で銭湯というのも本当に久しぶりのイベントであることに気付き、親孝行の意味も込めて素直に承諾したのであった。

子供たちは嫁とお袋が女風呂で面倒を見てくれることになったので、私と親父はのんびりと湯船に浸かることができた。

私が「電器風呂」に入り、電極に極限まで体を近づけ筋肉をヒクヒクさせながら修業気分に浸っていた時、隣の薬草風呂から親父が露天風呂に誘ってきた。

チョコンとタオルを頭の上に乗せて親父と二人で露天風呂。話題はいつしか我が家の家庭事情へと移った。

親父「どうや、エイジ。最近は「嫁」ちゃんと上手くいっとるのか?」

呉「…。」

ここで私は言葉に詰まってしまうのである。どういう事を「上手くいく」というのだろうか? 離婚していなければ取り敢えず上手くいっているということなのであろうか?

私は思いきって人生の大先輩でもある親父に相談したい気持ちになった。

呉「親父、やっぱり男ってもんは家庭を持っていても、酒とかタバコとかパチンコとか何か一つ娯楽があるよな。それは別にオカシイことじゃないよな。」

親父「なんや急に(笑)。そうやなぁ、大黒柱には娯楽も大切な事やなぁ。」

呉「親父は確かマージャンやったよな。」

子供の頃、ジャラジャラと牌を回す音で日曜日は目が覚めた。そういう時は大抵客に「おつまみ」が出ているので(毎回ブルボンのピーパリであった)、それをつまみに回るのが楽しみであったのだが、別室で独りテレビを観ているお袋の目は、テレビに視線がいっているとは到底思えず、私が心配になって話しかけてみると

お袋「あの人の負け分は、みんなお隣りの家賃になる。

と、子供に話すレベルの話題ではない話の展開になり、それはお袋が話す相手を把握できていないブチ切れ状態の証拠であり、子供ながらも返事に困ることしばしばある懐かしの借家長屋時代であった。

呉「世間のダンナってもんは、毎晩晩酌したり、休みの日はパチンコに行って万札を数時間でスッたりするけど、俺は親父に似て酒はまるっきりダメだし、バクチも興味ないから割といい部類のダンナだと思うんだけどさぁ。」

親父「毎晩の酒代ってのもバカにならんぞ。それを考えたらワシもオマエも家計には貢献しとるダンナになるかな?」

そうだ。男が趣味の一つを結婚後に持つ事は別にオカシな事じゃない。それが酒かマックかの違いなだけだ。

それでも嫁は私がマックにお金を注ぎ込もうとすると怒り狂う。必死になって低姿勢でマックの良さを説明しても無駄だ。火に油どころの話ではない。その怒り狂う姿はまさしく「火にニトロ」である。

私と嫁は恋愛結婚であった。しかしキッカケを作ったのは寧ろ周囲に居た人達である。「デキちゃった結婚はするな。」「計画を持って交際しなさい。」「早く孫の顔が見たい。」「若い出産は楽だ。」など、攻め立てられるようにいつしか結婚式の日取りは決まっていた。

周りの押し上げがなければ、いつまでもズルズルと恋人関係のままだった可能性は無きにしもあらずである。

そんな周りから動いた結婚式にチョッピリ反省しながら、私は人生の大先輩である親父の「結婚観」をフト聞いてみたくなった。

呉「オ、オヤジはなんでお袋と結婚したんや? なにが決定打や?」

親父はしばらく考えると、手で肩に湯をかけながら

親父「まぁ、オマエも知っている通りワシは四国から神戸に出てきた。田んぼばっかりの田舎にイヤ気がさしてな。オマエと同じ30歳の時の話や。都会の華やかさにあこがれてたんや。そこで自由気ままに一人暮らししてたんだが、自由はいいんだが自由は大変でな、ご飯もそうだし洗濯物も溜まる。部屋は汚れる一方だし不便で仕方がなかった。そんな時19歳だった母さんと出会ってな…。」

親父の動機もムチャクチャであった!!

親父「しかしなんだなぁ。「嫁」ちゃんは母さんと一緒で酒強いだろう。」

呉「ああ、晩酌に付き合えないから物足りない。って前に一度怒られたことがあった。」

親父「そんな所まで似んでも、オマエ…。」

親父は泣くような笑うような良く判らない表情をしながら私の肩をポンと叩くと「先に上がるぞ」といってさっさと出ていってしまった。

男湯から出ると待合には「待ちくたびれました」と顔に書いてあるお袋と我が妻の姿があった。

お袋「久しぶりっていうてもお父さん。チョット長すぎるで。待ってる身にもなってぇな。こっちは湯上がりが待合のクーラーで冷めてしもうて、せっかくの湯上がりビールの美味しさが半減や。」

嫁もお袋の横で「まさしく正論」といった顔つきである。どうする事もできないまま親父に助けを求めるべく振り向くと、親父はだまって一人で買ったコーラの紙コップを申し訳なさそうに捨てている所であった。

立ち尽くしたまま私は親父と親子を実感するのであった。

 


これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。

受け継ぐから遺伝

と、一言いっておきたい。