
「魔女の大掃除」
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日本の風物詩「年末大掃除」。いつ、何故、このような不必要なイベントが日本に定着してしまったのか。新年を迎える前に大掃除。一年間の垢を落として気持ちのいい新年。血相変えて大掃除。したくない人間は「非国民」のようなムード。 根っからB型人間の私は身の回りを整頓しても、せいぜい「持って3日」である。逆に驚くほどに几帳面な嫁の掃除の後のマック部屋では気分が落ち着かない。必要なCD-ROMやMO、雑誌などがすぐ手に届く範囲で乱雑に置かれている方が便利だ。 こういう私を嫁は「人間とは思えない」というような視線で射貫くのである。 例えばカーテンだ。休日の朝、愛機の前に座りしばらくすると嫁が怒鳴りだす。 「朝になったらカーテンくらい開けんかい」 何故怒鳴られなければならないのか。という問題は置いておいて、しぶしぶカーテンを開ける。 そしてそのまま夜だ。気付かぬままメールチェックしていると今度はこうだ。 「夜になったらカーテン閉めんかい。私がフロに行く時、近所から丸見えになってもエエんか!」 知らんがな、と心中ボヤきつつもカーテンを閉めるのである。なら最初から閉めっぱなしで良いではないか。掃除も然り。それでも年末はやってくる。今年も嫁主導の年末大掃除は避けられそうもなかった。 ※ 冬だというのに嫁は袖をまくって一人ヤル気満々である。私はうな垂れ、そして心持ち猫背気味で嫁の前に立つ。今から重たい冷蔵庫やテレビを動かし、前から後ろから拭き倒そうというのだ。なんという無駄な労力。 小学生の頃の運動会、50m短距離走の前のように、私は「お腹が痛くなりそう」であった。 嫁「さぁ、無駄なく始めるで。無駄が無いようにスケジュールを紙に書いてみた。」 嫁から手渡されたメモには、こう書かれてあった、
呉「パパ、パパって、オマエこれ俺の比率が高いやんけ!」 メモには誰の目から見ても理不尽な内容が書かれてあった。これは断じてスケジュールなどではない。「支配」だ。 呉「換気扇ってオマエ、台所は女の命やろう。女の心やろう。それはオマエが自分でやるべきやと思うけどなぁ。」 嫁「なに言うてるねん。私は冷蔵庫の中の霜落としとかやらなアカンねん。」 呉「霜落とし?」 丁度、冷蔵庫の真横に立っていた私は、何気なく冷蔵庫を開けてみる。 呉「エエがな。エエがな。全面霜がついて年中南極状態でエエがな。」 嫁「なに屁理屈ばかり言うとるんじゃ。霜は逆に冷えへんのじゃ!」 どうも今回ばかりは私の屁理屈は通用しそうになく、嫁は昨日遅くまでかかって書き上げたスケジュール通りに事を運ばせるつもりのようであった。 嫁「ははぁん。アンタ今「台所は女の城」言うたよなぁ。それならアンタの「男の城」マック部屋。私が納得いくまで掃除してもらおうか。」 墓穴であった。いや、自分で自分の墓穴を掘り、その中にダイブ状態であった。何が散らかっているって私の部屋が一番散らかっており掃除に時間がかかる部屋ではないか。 嫁「まぁ、よくもこれだけ物を買い集めたもんや。さぁ、今年は思い切っていらんもん捨てるで。」 呉「い、いらんもんなど一つも無いっ。」(半泣き) 泣いても喚いても嫁はお構いなしだ。ズカズカと私のマックの前に仁王立ちである。 嫁「この机の下にある古いプリンター。これは何や。」 そう、机の下に安置されていた電源コードを本体にグルグル巻きにしている古いプリンター。これは新婚当時、初代キングジョー(LC630)購入の折りにセットで買ったインクジェットプリンターだ。お金をかけた割にはドットも荒く「写真画質」には程遠いシロモノで、ガッカリした憶えがある。 呉「これは新婚の時に初めて買ったプリンターやないか。思い出の品やないか。」 嫁「で、コイツは今、ちゃんと動くんかい。」 呉「これは長女がまだ赤ちゃんの時、給紙口に「せんべい」を詰めてガリガリいう音とともに逝ってもうたがな。」 嫁「捨てる。」 嗚呼、無惨にも初代プリンターは嫁の小脇に抱えられ玄関まで持っていかれてしまった。その場に崩れ落ち指をくわえて見ていることしかできない無力な私。私のバックには「ドナドナ」や「思いでがいっぱい」が鳴りまくっていた。 嫁「ほんでコレや。コレは一体何や。」 呉「え、MOドライブ」 ついに見つかってしまった。今あるMOの奥に乾電池でいうところの「直列」並びで隠されていた初代128メガMOドライブ。2年前の年末調整を自分なりに調整し640メガMOドライブに買い替えてからは御役御免になっていたマシンだ。 呉「使ってへんけど今ある機械がもし壊れたら必要になるかもしれんやないか。」 震える声でそれだけ抗議するのがやっとであった。 嫁「今ある機械より古いんやな。それならコイツの方が早く壊れるんと違うんか。」 嗚呼、またしても愛機が強奪されていく、私は腰紐を引っ張られてクルクルとまわる芸者のような情けない声しか出なくなっていた。後ろから見送る目はまるで先に敵艦向けて突っ込む特攻隊の「命を賭けた親友[とも]」に送る眼差しであった。バックのBGMは「同期の桜」に変わっていた。 嫁「で、これ。スキャナーの横に置いてある誇りかぶった白いカメラ。これは何や。」 それも新婚当時、まだデジタルカメラなど普及していない時期に買った「フロッピーカメラ」という代物だ。10万画素あるかないかのヘッピリカメラで結構奮発した憶えがある。こいつも今では貫録のある「退役軍人」である。 呉「もう動きません。でも思いでの詰まった機械で…」 嫁は私の話を最後まで聞かぬまま玄関に向かって歩いていった。むごい。むごすぎる。このような理不尽で悲惨な話がまかり通っていいものなのだろうか。私と青春をともにした今では動かなくなってしまった「親友」達を粗大ゴミ送りにするとは。親から「物を大事にしましょう」というしつけは受けなかったのか。愛着というものがないのか。「頼むから帰ってきてくれ〜」テレビ番組でスリガラス越しに声質を変えられて逃げた女房を呼ぶ中年男性の心境である。 嫁「さて、問題は一番大きいコイツやな。」 嫁はあろうことか初代キングジョーの前に立ちはだかった。目はギラギラと燃え、心持ち「嬉しそう」である。 呉「た、頼む。コイツだけは頼むから捨てないでくれ。確かに今は使っていない。だけど初めて買ったマックなんや。何ものにもかえがたい思いでが詰まったマシンなんや。」 嫁「そうそう。この機械のおかげで私の人生は大幅に狂わされましたわ。」 なんだ、その低い威圧するような返事は。オマエは「地上げ屋」か。 呉「頼む。一生の御願いや。なっ、もう3つも捨てたやないか。気が済んだやろう。充分に気が済んだやろう。」 私が嫁の肩を掴み、ガクガクと揺らしても嫁の視線は初代キングジョーから外れることはなかった。 嫁「このマックを捨てた後のスペースは観葉植物を置く」(アンマッチ!) 呉「い、いらん。観葉植物なんていらん。機械だけでエエ。地球に優しくなくても構わへんから、コイツだけは捨てんといてくれ。」 嫁の足下にいつのまにかしがみつく私。無意識のうちの土下座だ。すると私の背中から冬の凍てつく風が吹き込んできた。揺れるカーテン。気がついて振り向いてみれば窓は全開であった。向かいの5階建て県住の皆さんに私の土下座ポーズが丸見え状態である。 だから昼でもカーテンは閉めておけというのだ。 | ||||||||||||||||||||||||
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「家の大掃除より嫁には心の大掃除をして欲しい」
と、一言いっておきたい。
完