
「奥様は鬼女」
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普通、嫌いなものでも毎日接していれば情みたいなものが移り、それほど嫌いでもなくなるのが人間というものではないか? と私は考えるのだ。ましてや私は嫁が人生のパートナーとして選んだ「夫」である。心の底から尊敬されてしかるべき存在である。その最愛の相手が没頭している「マック」。人生の伴侶であるならば夫の趣味に寛大なる理解を示し、日々の労働を癒す意味でも多少の個人プレーは目をつぶってやるのが「あげまん」の条件ではないか? と私は考えるのだ。 考えてもみてほしい。世の中には酒に溺れ、お酌してくれる豊満なお店のギャルに魅了され酒代で何万円も消えていく夫もいるではないか。また馬に軍資金を託し、一発当てるつもりが無惨にも人参代に変わってしまう博打夫もいるではないか。 そのような夫連中に比べれば私などはオデコに優良シールを貼られてもよい夫である。妻の目の届く場所でマックを触る事以外に、これといった趣味を持っていないからだ。 しかし、だ。嫁は結婚してからずぅーっと私がマックの素晴らしさを説いているハズなのに、ちぃーっとも理解を示そうとはしないのだ。まぁーったく好きになる気配もないし、逆にマックへの憎悪は日々深まるばかりなのだ。 この前も愛機マックを立ち上げ、真っ先に読者様からのメールを丹念に読んでいたときのことだ。 嫁「さっき風呂入る言うてから何分たっとるんじゃ。いつまでマックの前にへばりついとるんじゃ。種火はタダ違うのわかっとるんか!」 凄まじい剛力でタンス部屋の襖を叩き開けるのと同時の非常識な怒号である。もし仮に私が心臓を病んでいたとすればだ。速攻で昇天は間違いなしである。 呉「そないに怒鳴らんでもエエやないか。メールチェックしたらちゃんと入るがな。」 嫁「アンタがそんな無駄なことしてる間にも、種火でガスメーターはクルクル回っとるんじゃ。無駄なお金がこの瞬間にも落ちていきよるじゃ。マイホームが遠のいていくんじゃ。」 なんだか物凄く論理が飛躍しているような気もしながら私はシブシブ服を脱ぎ始める。未読メールを残したままなので気になって仕方がない。後ろ髪を思いっ切り引っ張られる思いだ。 嫁に言われるまま、私が脱衣場に向かったその瞬間。 嫁「なにマックつけたまま風呂に向かっとるんじゃ。その間にも電気メーターはクルクル回っとるんじゃ。無駄金が落ちていきよるんじゃ!」 後ろからいきなり不意打ちのような怒号である。私はあまりの大声に圧倒され、もう少しでツルツルの脱衣場で転倒し危うく後頭部を強打するところであった。 呉「わ、わかったがな。ちゃんと消していくからそのいきなりの大声だけはやめてくれ。心臓に悪い。」 血液型B型の私のマイペースさは、O型の女性には堪え難いものがあるということを何かの本で読んだ気がする。 風呂場は長い間種火がつきっぱなしであったため湯の温度はかなり上がってしまっていた。とりあえず恐る恐る足を入れてみる。風呂場全体に湯気が立ちこめている。これはとても肩までつかれる温度ではない。私は「ぬるま湯派」なので迷わず水道の蛇口を勢い良くひねった。 嫁「ワレ、何水で埋めとるんじゃ!!」 今度は風呂の戸が壊れそうな勢いで叩き開けられた。驚きの余り私はもう少しで頭から湯船に転落するところであった。このような生活を続けていれば、いつか私は命を落とすかもしれない。 呉「オ、オマエ風呂場で何叫んどるんじゃ。びっくりするやないか。」 嫁「種火を長いことつけとった思うたら今度はせっかく温もった風呂を水で埋めるんか。水道代まで無駄遣いするんか。水道メーターまで無駄にクルクル回す気か。そのまま無駄なく入らんかい。」 どうやら嫁は水道代までケチろうとしているようである。私は仕方なく水道の蛇口を締める。嫁を恨めしそうに見つめながら風呂に足をつける。今の私の格好は恐ろしく無防備で情けないものがあった。足を湯船につけた瞬間針で刺したような痛みが足全体を包み込む。このような熱湯風呂を気持ち良く長時間楽しむ嫁の神経が理解できない。神経が既に切れているとしか思えない。 私は両手で股間をしっかりとガードする。私の「ビックマグナム」はとてもデリケートなので熱さに敏感なのだ。身をくねらせながらも少しづつ湯船に身体を沈めていく。こんなもの苦行以外の何物でもない。一日の疲れを癒すハズの入浴であるはずなのに、何故、石川五右衛門のような「釜ゆで」気分を味あわねばならぬのか。今、私の顔は「ゆでダコ色」になっていることは間違いない。 とてもリラックスして入っていられる温度ではない。取りあえず風呂から出て頭から先に洗おう。 イスに腰掛けると嫁に監視されていた緊張がイッキにほぐれたのか、急激な尿意が私の股間を襲ってきた。 呉「ふ、風呂場でやっちゃっても後でお湯でキレイに流せば全然問題…ないよな。」 口を大きく開け、恍惚の表情を浮かべる。排水口にジョボジョボとお小水が流れていく。 嫁「なにガキみたいなことやっとるんじゃーっ!」(超ド号) まだ風呂場の戸の近くにいたとは気が付きもせず、いきなりの大声とともに風呂の戸を開けられてしまったので、私の股間はスプリンクラーのような状態になった。 呉「さっきからオマエは細々と口うるさいんじゃ。プライバシーの侵害やぞ。」 いくぶん後ろめたさを感じながらも精一杯に言い放つ私。 嫁「何がプライバシーじゃ。親がそないな情けないことでどないするんじゃ。子供に示しがつくんか。」 プライドが高く、高学歴な男性がウチの嫁と再婚したとしよう。このような絶対監視地獄を毎日経験すれば確実にノイローゼに陥り、おもむろにバットを振りかざして街行く人々を笑いながら殴打していってもなんら不思議なことではない。自由などないのだ。我が家に民主自由主義は存在しないのだ。 「カラスの行水」を地で行くように私は風呂場から飛び出した。季節は早いもので11月。冬はもうそこまでやって来ている。コンクリート造りの県住の部屋の中は結構寒い。脱衣場にしばらく立っていると今度は寒さで身体が震えだしてきた。 呉「おおい。ダンナ様が風呂から上がったのにタオルも何も出てないぞ。」 嫁「アンタのタオルはそのカゴの中にちゃんと入っとるやないか。」 そのカゴに入っているのは嫁と子供が身体を拭きまくった使用済みタオルである。 呉「あ、新しいバスタオルはないんか。なんでこんな絞れば水が出そうなタオルをワシが使わなあかんねん。」 嫁「そないに染み込んでないはずや。アンタ洗うもんの身になったことあるんか? バスタオル洗う手間を省かしてやろうとは思わへんか? それで充分や。」 半泣きになりながらタオルをソッと身体にあててみる。ビショビショのタオルは外気に触れてかなり冷たい。冷凍タオルである。一応拭いてみたがそれはもう風邪を引きそうな冷たさだ。タイタニック号沈没で次々と凍死していくような乗客状態に状況は一変した。 嫁の鋭い視線に射すくめられ、私は引きだしから新しいタオルを取り出すことがどうしてもできなかった。 呉「な、なんで一家の主がこんな冷たいタオルで身体を拭かなアカンねん。な、なんでこんな…。」 私の両方の鼻の穴から流れ落ちる鼻水は私の言葉を遮り、滝の如くいつまでもとどまることを知らなかった…。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「悩み相談のメールは全て「耐えなさい」と返事している」
と、一言いっておきたい。
完