
「ミッドナイトトーク」
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すまんなぁ、こんな時間に呼びだして。 えっ? そうそう。酔ってるよ。うん、ダメ、俺は酒全然ダメ。でもこれが飲まずにやっとれますかいな。ホント遅くからゴメンな。頼むからチョットだけ聞いてくれ。チョットでいいから…。 うん、今俺一人。何故かって? 嫁さん子供連れて実家に帰ったよ。ハハハハ。えっ、笑い事じゃない? そうだよなぁ。寂しいもんだよ。賑やかなのに馴れてるからさぁ、夜中一人で県住に居るってのは侘しさが倍増するよ。 嫁さん実家に帰ったからさぁ、当然晩ご飯がないねん。それでさっきコンビニへ行ったのよ。そしたらレジの娘がこれまた目茶苦茶可愛くてな、そんでもって目茶苦茶愛想がいいわけよ。弾けるような笑顔でな。「お弁当温めますか?」だよ。 俺、思わず「ついでに僕の心も温めてください」って言いそうになったよ。 いくら家庭環境が修羅場の毎日で悲惨でもな。これを言っちゃあ社会人生命ファイナルだよなぁ。言いたくなる衝動を必死で抑えたわ。 それがなぁ、聞いてくれよ。嫁さんこの頃狂った九官鳥のように「マイホーム」を口にするわけよ。そんなもんプラモと違うんやから、そないに簡単に買えるもんと違うやろ。「まだ新築一戸建てなんて無理や」って言い返したらな、嫁さん凄い形相で俺を睨みつけるんよ。 俺がマックに投資してきた額を全部貯金していれば軽く家の頭金になった。と、こうだよ。無茶な話だろ? 5階の奥さんはこの春に家建てるって、そんなもん俺知らんがな。そないなこと言いだしたらほんまキリがないんや。過ぎ去った時間の事言われてもなぁ。あの時旅行へ行かなければ、あの時外食しなければっていくらでも貯金できるがな。 家の頭金が無いのはみんな俺のマックのせいになっとるわけなんよ。5階の奥さんの家にはマックがないから家が建てられるっちゅう嫁さんの理論なんよ。どない思う? 何か間違ってるやろ? 俺、ひどい待遇やろ? 家庭には組合なんてないからなぁ、ストも起こせへんし。俺は言い返さんとじっと我慢してたんよ。それでも嫁さんの猛攻は休むことがないんよ。 「マイホームの為に今日からオカズは一品でイクからな」 もうホンマ堪忍してほしいわ。とうとうオカズも一品になるみたいやわ。待遇も寒い。食卓も寒い。懐も当然寒い。ゴメンな、こんな話ばっかりで、言うて行く所がないんや。もうちょっとだけ聞いてくれや。 「アンタ、きょうの晩何が食べたい?」 嫁がイキナリ聞いてくるからなぁ、俺何も考えないで「カツカレー」って言うたんや。カツカレーやで? ささやかな要求やろ? そしたら嫁さんどない言うたと思う? 「ワレさっき何聞いとったんじゃ。オカズは一品じゃ言うとるやろ。一日はカレー。翌日がトンカツなんじゃ。」 嫁さんの吐き出す闘気で思わずひっくり返りそうになったわ。俺、これからどないしたらええんや。うかつにオカズの希望も言われへんようになってしもうた。 「ミートスパゲッティ食べたいなぁ。でも、スパゲッティとミートソースで二品って怒鳴られるんとちがうやろか。野菜炒めも野菜オンリーで肉は入ってないんやろうか。」 なんで家庭でこんなにビクビクせなアカンねん。晩ご飯はやっぱり明日への活力やろう。食卓がガラガラっていうのはやっぱり辛いもんがあるわ。こんな無茶な法案、通したらアカンと思ってな。俺、言い返したんよ。 「一生懸命働いて、晩ご飯は一品だけかいな。マイホームが無理なのはみんな俺のマックのせいかいな。俺は娯楽すら持ったらアカンのか? 働くだけの労働マシーンになれ。っちゅうことなんか? 寒いやないか。あまりに寒いやないか。もっと温もりのある家庭にはならんのか。」 半分涙ながらの必死の訴えや。それを聞いた嫁さん。一体どないしたと思う? 顔色一つ変えないで、スーッと左腕を上げたと思ったら、電子レンジのフタを開けたんよ。 俺は何が何やらわからんから目が点になってしもうたんよ。そしたらイキナリの怒号や。 「寒いんやったら中に入っとれ。この肉まん。」 俺、いい歳こいてマジで泣きそうになったわ。この家庭では温かい環境は無理や思ったわ。電子レンジやで。主人に向かって「肉まん」やで。「出てきたら俺は辛子醤油かいや!」 スマン、夜中に大声出してしもうて。ほんまグチばっかりでゴメンな。言う所が全然ないんや。もうちょっとだけ聞いてくれる? それで昼の話や。昼ご飯はラーメンやったんや。座って待ってたら何が出てきたと思う? 具も何も入ってない「ただのインスタントラーメン」やで。独り暮らししててやなぁ、男の料理なんてインスタントばっかりやから、当然ラーメンとかレトルトカレーになるわなぁ。 で、フト具も何も入ってない粉スープ溶かしただけのラーメンを見てやなぁ、「俺もそろそろしっかりしようか。身を固めようかな。」てな風に考えるもんやろ。結婚したメリットには、インスタントラーメンの中に野菜や玉子が入ってるってのもあるよなぁ。 俺、身を固めて良くなったどころか、恐怖で身が固くなるばっかりや。そこで思わず言うてしもうたんや。 「オマエ、これはないやろう。これ素ラーメンやんけ。なんのオプションもないやんけ。」 わかるやろ? 言う気持ちわかってくれるやろ? そしたら嫁は何も言わずに、ただ俺を睨みつけるだけなんや。 まるで「ラーメンに野菜と玉子入れたら三品になるやろ」とでも言わんばかりや。 もしかしたら俺、この先病気でもせな玉子食べられへんかもしれん。 あんまりやから俺も遂に言うてしもうたがな。 「こんなもん喰えるか。」 こうなってしまうのわかるやろ? 誰でもこういう結果になってしまうやろ? そしたら嫁さんなんて言い返してきたと思う? 「吐いたツバ、飲まんときや。」 やで。ヤンキーの抗争と違うんやから。なんで家庭でこんな激しい衝突にならなアカンねんって、つくづく思うわ。 そんでもってこのザマですわ。嫁さんは子供連れて実家に帰るし。独りでコンビニ弁当やし、ホンマ、なんでいっつもこないなるねん。ゴメンな、グチばっかりで、頼むからもうチョットだけ聞いてくれ… 私がいくら間近で悲惨な話をしようが、長女のフランス人形の顔色は変わることがなかった…。 最初は友人に電話をするつもりだったのだ。だがよく考えればこのような炸裂した恥など、いくら親友でも話せるわけがない。しかしこの衝動を誰かに話さないとやり切れない。 「ええんや。これでええんや。俺はただ誰かに話を聞いて欲しかっただけなんや。話せばスッキリするんや。これで明日からも頑張っていける。これで明日からもしっかり…。」 月明かりが優しく頬の涙を照らしていた…。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「グチを飲み込めば闘争も起こらぬ」
と、一言いっておきたい。
完