
「バイオレンスダイアリー」
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モーレツに自分が腹立たしいのである。以前私は「葬られた記憶」という話の中で過去の日記の事を書いた。結婚前の天使のような嫁の事を熱く書き綴った今の私にとってはただ傷口を広げるだけの日記の話だ。 あの一件は日記と記憶を焼却することで一応ケリはつけた。問題は日記のページ数である。あの時の日記は最初の5〜6ページだけ熱く燃えたぎって書かれており、残りは大量の空白になっていたのだ。 なんと二十歳を超えて三日坊主である。なんという恥ずかしさだ。小学生ならともかく成人式を終えた大人がすることであろうか。情けなくてしようがなかった。戦国時代なら元服して戦国大名の年齢だ。それが自分はどうだ。サザエさんのカツオじゃあるまいし。 私は手元にあった新しいノートを手に取った。あの時のリベンジである。今の私はあの頃とは違い、格段に成長しているのだ。どうせ日記を書くのなら、じっくりと細かく日々の事を書こうではないか。10年後の私が読んでも、まるで目の前に情景が浮かび上がってくるようなものに仕上げようではないか。読んで楽しいものにしようではないか。 「今日はもう遅い。日記は日曜日の明日の夜につけよう。」 私は先に明日の日付だけを素早くかき込むと、勢い良く布団に潜り込み「巨乳アイドルとデートができますように」といういつもの祈りを捧げて眠りについた。
午前中「うかいや」へ立ち読みに行く。マック関係の雑誌がお目当てだ。私の愛機を鼻で笑うかのような高い性能を持つ新機種達の写真が眩しい。 フト気が付くと隣で立ち読みしている若い女性が「かなりの巨乳」である事に気が付いた。横目でも充分確認できるのだ。高鳴る動悸。ロングヘアーに白のブラウス。 こうなると雑誌の立ち読みどころではない。顔は前を向いてはいるが視線は巨乳にくぎ付けだ。今の私は「鹿並の視野」であった。 その白いブラウスのボタンを弾き飛ばしてしまいそうな豊かなバスト。それはまるで新型iMacの本体部分を思わせた。 ビバ! iMac!! そして更に注意深く相手にさとられぬよう観察すると、どうやらその女性は「マックピープル」を手にしているようであった。おぉ「我が妻との闘争」は読んでくれてますか? 貴方の横に立つ「グレイのボーカル似」の男こそ呉エイジなのですよ。 「ええっ、あのひどい奥さんから迫害を受けている呉エイジさん? 私、癒してあげたい。」 とめどない妄想が頭の中を支配する。その女性は雑誌を置くと出口に向かって歩きだした。やはり置かれた雑誌はマックピープルであった。別に後をつけるつもりなどなかったのだが、そろそろ昼食の時間だし私も家に帰ることにした。 自動ドアが開き先に女性が出る、その数メートルを歩く私。するとその女性はチラッと私の方を振り向くと小走りに走り去ってしまったのだ。その表情はまるで「梅図かづおの漫画のキャラ」のような顔になっていた。思いっ切り変態扱いされてしまった。涙が出そうであった。 ※ 家に帰ると嫁が部屋中をひっくり返していた。「オマエ何してるねん」と聞くとどうも今度幼稚園でバザーをやるらしい。それで家の中の使わないで置いてある物を出品して売ろうというのだ。 嫁は「丁度エエところに帰ってきた」と私に向かって吐き捨てた。なんという貫録。一体どこの社長だ。嫁は私の袖を引っ張るとタタミ部屋の押し入れの前まで強引に連れてきた。イヤな予感が私の全身を包み込んだ。 嫁の顔は言うまでもなく険しかった。最近嫁は年がら年中、眉間にシワを寄せているので、眉間が「北斗の拳のラオウ」のような状態になってしまっている。ここまできたら高級なパックを使っても修復は不可能であろう。 「一体なんや? こんな押し入れの前で。」嫁は私の話しを聞く素振りなど全く見せなかった。そして勢い良く「スパーン」とタタミを叩き開けた。次の瞬間、私は自分の耳を疑った。 「一体なにさらしとんねん。」 これが一家の主に向かって言う言葉であろうか。「な、なにが言いたいんや。」どうやら嫁は私の趣味の品々で完全に埋まっている押し入れが気にくわないらしい。子供のジャングルジムや学校の教材を入れるスペースがない。と延々私に訴えた。 「このメガドライブとかPCエンジンとか使ってないやろう。バザーで500円で売ろう。」 と、とんでもない提案を押し付けてきた。そんなもん提案ではない。一体私がどれほど苦労して古いゲーム機を今まで集めてきたと思っているのか。マックとレトロゲーム収集が私の趣味の二大柱なのだ。 その同じ趣味を共有する元同僚の「のぶお」。彼とは「誓書」を交わした間柄だ。お互い800本ほどになるファミコンのゲームソフト。これをもしどちらかが先に死んだら、そっくり相手に譲ろう。というものだ。ちゃんと「拇印」も押したのだ。 最近ではお互い「早く死ねばいいのに」とか思っているはずだ。そんな熱い男のロマンを嫁はつまらん子供のバザーで、しかもたった500円ぽっちで売りさばこうと計画しているのだ。 甲高い声で「だまらっしゃい」というところであったがオカマっぽいのでやめておいた。 「ソフト一本100円で売ってみ? ざっと見ても7〜8万にはなるで。アンタもそれだけ纏まったお金があったらスイートテンダイヤモンドの一つくらい買う気にもなるか?」 その時私は「嫁の脳みそは確実にネジが一本飛んでいる」ということを確信した。こんな嫁の下で働いていたらいつか過労死してしまう。そんな事を考えている横から、また嫁が信じられないセリフを私に向かって吐き捨てた。 「今まで我慢してアンタが買ってきたファミコンソフト、私がお仕入れに整頓して片付けてやったけど、今じゃもう入らんようになって外に溢れ出てるやんけ。これ一体誰が掃除するねん。私か? 私なんか? アンタええかげんにしとかな粉にしてまうぞ。」 私の心は涙で溢れそうであった。なんという恐ろしいセリフをダンナ様に向かって吐くのだ。粉とはなんだ。粉とは。私はパウダー状にされてしまうのか。もうこのような生活… ※ 私は日記を書く手を止めた。読み返さずとも悲惨な手記である事がわかった。自分の三日坊主に我慢がならず再チャレンジした日記。確かに過去の日記よりも詳しいし、文章も洗練されている。情景も浮かぶ。悲惨で恐ろしい情景が浮かびまくる。 そもそも日記とは「あぁ、あの時こんなことあったよなぁ」みたいな過去を懐かしんで微笑んでみたりする側面もあるのではないだろうか。それがどうだ。私の今の日記は読み返しても全然楽しい気持ちにならぬではないか。 自分で「末代への恥」を記して残しているようなものだ。今の私では日記を書き続けても悲惨な体験しか書くことがない。そんな日記を残してもなんの意味もない。楽しい話題で三日以上書き続けることなどインポッシブル(不可能)である。 私は諦めてノートを静かに閉じた。捨てよう。こんな傷だらけの日記など捨ててしまおう。私は玄関に置いてある古新聞の束へ嫁に気が付かれぬようソッと挟み込んだ。 しかしこの重い古新聞の束とて、今晩家族が寝た後、私が粗大ゴミへ出しに背負って降りるものなのである。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「結婚したら記録より忘れる事の方が大事」
と、一言いっておきたい。
完