
「バーチャル我が家」
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マックピープルに寄せられる読者メールを私は毎回ありがたく拝見させていただいているのだが、中には「呉さんって毎回悲惨な話を書いてるけど、現実はアツアツのラブラブで出勤前にチューとかしてるんじゃないですか?」みたいなたわけたメールや「夫婦円満でないと子供三人も作れないですよ」という冷静な分析のメールが来たり、だがしかしそれは夫婦円満ではなく予定外な私のガマン汁が…、いや、この話題はもういいだろう。 なんにせよ私が毎回魂を込めて日本全国に訴えている内容に対して、読者の中になんと「疑り屋さん」がいるのだ。まだ私の書き方が足りなんだか。まだ第三者的な視点すぎたか。よし、それならば映画「マトリックス」よろしく、貴方が仮想現実での私になり、我が家の壮絶な一日を過ごしていただこうではないか。悲惨なアトラクションを体験していただこうではないか。時刻は休日の朝の7時にセットした。目が覚めればこの世とは思えない世界が貴方の目の前に広がることだろう…。 ※ ゆっくりと目を覚ませば頭の上では団欒の声。寝ていたのは自分だけで、嫁と子供三人は賑やかに朝食の席に着いていた。腹をポリポリ掻きながら貴方は朝のメニューをチェックする。それはピザであった。私の大好物のピザであった。自分も食べたい。貴方は当然の欲求を口にする。 「おぉ〜。今朝はピザかいな。おいしそうやなぁ。パパにも一枚焼いてくれ」 笑顔で嫁にリクエストしても嫁は何も反応してくれない。しばらく待つと嫁から信じられない一言が…。 「遅うまで寝くさっとるからピザはとっくに売り切れや。」 はじめから私に出すピザなど用意していなかったのではないか? という貴方の不信感は多分正解である。私のピザ代を節約してマイホーム資金にしているのではないか? という貴方の推測も大正解であるが、我が家でそれを口にしてはいけない。 「ピ、ピザは売り切れか。ざ、残念やな。なら他に何があるんや?」 「遅いモンにはご飯と目玉焼きだけしかないで。」 いろいろ言いたいこともあろうかと思うが、とりあえずここは座って頂く。そして貴方は目玉焼きと向き合うのだが、肝心な目玉焼きにかけるソースが見当たらない。目玉焼きにソースは常識である。貴方はソースの居所をしつこく尋ねる。すると嫁の不意打ちとも思える怒声が貴方を襲うのだ。 「ソースはいつもの定価より20円安い日にならな買わへんのじゃ。醤油かけて食べとれ。」 なんということだ。嫁は卵焼きには「醤油派」なのであった。仕方なく貴方は好みではない目玉焼きの醤油かけを食べ始める。このストレス度!! そうして朝食が終わるとスーパーのチラシを握りしめた嫁がタイムセールに行くために私を買い物に誘う。嫁を怒らせないよう手早く着替えて、貴方は狭い玄関へと向う。嫁は新しい私用のサンダルを無造作にポンと放り投げた。季節は夏、呉さんの嫁さんは気を利かして夏物のサンダルを買ってくれたんだな、なんだ、いい奥さんじゃないか。と、ここで早合点してはいけない。 「いやぁ、やっと見つけたわ。アンタ用のサンダル。子供用のはあるけど大人物のサンダルで198円ちゅうのは探すのに苦労したで。」 ここで貴方には愕然としていただきたい。一家の主のサンダルがたったの198円かいなという無常観。オマエそれ探しにどこまで行っとるんじゃという当然のツッコミ。よく見れば見慣れぬ嫁の新しいオシャレな夏物サンダル。どう見ても2000円以下では買えそうにないサンダルだ。しかし貴方はその不満を口にしてはならない。もし不満を漏らしてしまえば、 「アンタは家計からマックの本買えだのインクトナーを買えだの言うクセに私にはサンダルだけでイヤミ言われるんかいな。もう金輪際アンタのおねだりは…」 と、話しがややこしく複雑に長くなるのだ。黙って貴方にはセンスのかけらもない色をしたサンダルに足を通していただく。このダサイ色のサンダルで貴方はこの夏を乗り切ってもらうのだ。サイズは27.5なので当然ガバガバだ。 車は勢いよくスーパーの駐車場に流れ込む。嫁が全員に指令を告げる。 「エエか。もしスーパーの人になんか言われたら「玉子を買いに一人でお買い物に来ました」って言うんやで。お一人様一個限りやさかいな。今日は58円の日やからな。レジでピッが終わったら全員ここに集合。」 ここでも貴方は一家の主の威厳を目の前で踏みにじられる悲壮感を味わっていただきたい。俺の稼ぎはそこまで悪いんか。子供にそこまで細かい指示を出すんかいな。と、ぜひ涙目になっていただいてノイローゼ寸前までいってもらいたい。これが我が家の日常なのだから。 少し距離を置いて貴方と嫁はスーパーの中を歩く。一家庭に玉子一個やから離れて歩け。という嫁の指示の為だ。離れたまま小声で嫁が話しかけてくる。 「よっしゃ、今日はアンタのリクエストに応えたろう。何が食べたいか言うてみ?」 こってり派の私は当然の如くミートスパゲティーをリクエストする。やっと魚地獄から解禁である。 「うーん、ミートスパかぁ、上にかける粉チーズが高いから、今日は豚肉のしょうが焼きにしとき。」 それなら最初から俺に聞くなや、という当然のツッコミを貴方は速攻で口にしたいだろうが、ここはグッと我慢してほしい。人の心をもてあそんどるんか? オマエは人をナメとるんか。という怒りの声も飲み込んで欲しい。ここでもし反論でもすれば経験上 「なんや、気に入らんのかいな。そういえば冷凍庫にサバが残ってたなぁ。今日は煮付けや。」 みたいな最悪な展開になるのは目に見えているので、ミートスパは無理であったがしょうが焼きなら御の字だ。という心境になってもらいたいのである。 買い物が終わり県住の駐車場に嫁のヘタクソなバックで車をつける。最低でも4、5回は切り返す嫁の運転技術に対して「オマエは三半規管が狂っとるんかい」というツッコミは死を意味するので黙って最後まで駐車に付きあっていただきたい。 そうして嫁は軽い方の買い物袋だけを持ち、一人ささくさと車を降りるのだ。車内には重たい10キロの米袋と1.5リットルのペットボトルが三本。これを県住の三階まで持って上がるのはかなりキツイ労働だ。貴方は身軽そうな嫁に当然「手伝ってくれ」と要求することだろう。すると嫁は急にしおらしくなってこうのたまうのだ。 「アンタはか弱き乙女に米袋を持たせるつもり? アンタ男やろ?」 オマエのどこが「か弱き乙女」なんじゃ。ジャロが殴り込みにくるぞ! という貴方の当然なコメントは死んでも口にしてはいけません。口にすれば貴方に更なる不幸が訪れるのです。 一年中このような調子なのです。毎週がこれの繰り返しなのです。これでもアツアツですか? これでもラブラブですか? 貴方は右肩に米袋、左にはペットボトル三本入りの買い物袋を持ち、いつもの倍にも感じる県住の三階を目指してゆっくりと歩き出すのでした。 |
これを読んでいる独身者諸君。ここはぜひ心して耳を傾けてほしい。
「最近この結婚生活が仮想だったらとよく思う」
と、一言いっておきたい。
完