ムシムシ大行進


 

私は昆虫が大嫌いである。

まず、足がたくさんある奴を信用しろ!という方が無理だ。

足がたくさんあるといっても犬や猫はいい。足が4本以上ある奴がダメなのである。

第一、何故あんなバラバラに足が動くのだ?一体何を考えているのか?!

それからあの図形化不可能なお腹の気色の悪いモコモコ。パサパサなのになぜ運動できるのか?脂肪や筋肉もないクセに(筋肉はあるのか?)。この馬鹿たれめっ!

いや。わかっている。自分の深層心理の事くらい。4歳の時のあの事件が原因だってことくらい。

すべてはオヤジが原因だった。

遠い昔、オヤジがマージャン遊びを終えて深夜に帰宅した。家族全員はとっくに寝ていたが、ドアの開く音で目が覚めた私は玄関までオヤジを迎えに出た。

その時、オヤジの肩に白いものが乗っかっている事に気が付いた。

「パパ。それなぁに?」

今から思えばそれは脱皮したてのセミの成虫だ。まだ体が透けて見えた。

オヤジはイジワルな笑みを浮かべながらこう言った。

「ああ。これ?これはセミのブローチだよ。」

私は喜んだ。4歳の頭でも会社の接待マージャンくらいは理解できていた。日曜日が潰れたおわびにパパはブローチを買ってきてくれたのだ!と。

純粋なもんである。肩に乗る物体を自分に与えるオモチャだと、オヤジの言葉を完全に信じきっていたのだから。

であるからして私は完全に無防備であった。そして早くブローチを身につけたいという衝動にかられた。

次の瞬間には私の手は、かがんでいるオヤジの肩に延びていた。

その動作は静物に対するものであり、決して動物に対するものではなかった。

要するに乱暴だったということだ。相手が動物だとわかっていれば、いくら4歳でも

もう少し愛情のある触り方をしたハズだ。

悲劇はおこった!

触った瞬間「ヤバイ」とは思った。柔らかかったのである。

「なんでブローチがやわらかいの?」

そこから4歳の思考は混乱の渦に巻き込まれる。

私がセミの体をワシ掴みにしたため激怒したセミは、まだ乾ききっていない体なのに羽根をバタつかせ私の顔に目掛けて飛んできたのだ!

そうして、たくさん、たくさん、たくさんある足が私の鼻を捕えたの。

鼻がムズムズする。そこでセミは無礼にも羽ばたくのだ!

両方の目に映るセミの羽ばたく羽根のドアップ!

羽根越しに見えるオヤジの笑顔。

落ちまいとしがみつくセミ。

開きっぱなしの私の瞳孔。

この間、約2〜3秒であったろう。

私はその間硬直したままであった。

気が付いた時には大泣きしていた。深夜12時にこだまする、私の火のついたような泣き声。

家族全員が起きてきた。私は母親の胸に抱かれいつまでも泣いた。

泣きながら辺りを見渡す。

「アーッハッハッハッハッ!」

オヤジの無責任で能天気な笑い声。

もらい泣きする弟。イタズラに腹をたてオヤジを怒鳴り付ける母。

夜中の12時に床でいつまでもバタつくセミ。

この文章を書いている最中、私は何故か涙が出てしまった!

こんな事はホームページを続けてきて初めてのことだ。

なんちゅうアホらしいトラウマ!

精神カウンセラーにでも行くべきであろうか?と真剣に悩む。

そういう事で今だに私はセミを筆頭に昆虫全般がダメなのである。

以前居た会社で、イタズラでセミを肩に乗せられて気絶した事があった。

「そんなにキライだとは思わなかった…。」とは同僚の弁である。

 


 

予想以上に長引いたので次回に続く。